理化学研究所(理研)などの共同研究グループが、p‐n接合において電界に比例するドリフト電流や、キャリア濃度差に比例する拡散電流とはメカニズムが大きく異なる光電流であるシフト電流の観測に成功した。
理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)、東京大学は2017年8月21日、バルク光起電力効果が生じる要因とされるシフト電流という量子力学的な光電流の発生を、有機分子性結晶のテトラチアフルバレン‐p‐クロラニル(TTF‐CA)において観測したと発表した。
バルク光起電力効果は、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ物質、例えば強誘電体などで、p‐n接合の形成なしに光起電力が発生する現象のことだ。近年の理論研究では、シフト電流によってこの現象が生じるとされている。だが、どのような強誘電体でシフト電流が起きやすいかは分かっていなかった。
空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ物質は、電子の波動関数が異方性を持ち、バンド間の光学遷移の際に電子の重心位置が一方向にシフトする。定常光照射下では、電子位置のシフトが連続的に起き、直流電流が発生する。この光電流がシフト電流と呼ばれる。
理研らの共同研究グループは今回、シフト電流を示す物質の候補として、イオン変位よりも電荷移動の影響で分極が生じるTTF‐CAに着目した。シフト電流は電荷移動による分極と密接に関連するため、TTF‐CAには大きなシフト電流の発生が望めた。また、バンドギャップが約0.5eVと強誘電体としては非常に小さく、可視光や近赤外光への強い応答性も期待できた。
研究では、TTF‐CAの単結晶試料を作製し、分極軸方向に生じる光起電力を測定した。試料に疑似太陽光を照射したところ、TTF‐CAの強誘電転移温度である81K(約−192℃)以下で光電流が生じ、光起電力が発生していることが分かった。
転移温度直下で観測された光電流密度は、他の強誘電体の光電流密度に比べて一桁以上高かった。また、端子間で発生する光起電圧は低温で6Vを超え、バンドギャップの10倍以上の高電圧が出ていた。さらに、電場によって分極方向を反転させると、光電流や電圧の符号も反転することが観測され、発生した光起電力が分極と強く関連することが確認できた。
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