洗濯が可能な超薄型有機太陽電池を理化学研究所(理研)の福田憲二郎研究員らが開発した。伸縮性と耐水性にも優れており、衣服貼り付け型電源として利用することが可能となる。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター(CEMS)創発ソフトシステム研究チームの福田憲二郎研究員と染谷隆夫チームリーダー(染谷薄膜素子研究室主任研究員、東京大学大学院工学系研究科教授)らの共同研究グループは2017年9月、洗濯が可能な超薄型有機太陽電池を開発したと発表した。伸縮性と耐水性を併せ持つことから、衣服に貼り付ける電源としての応用が期待される。
ウェアラブルセンサーなどを駆動するための電源として、衣服貼り付け型太陽電池が注目されている。これを実現、実用化するためには、エネルギー変換効率や環境安定性、機械的柔軟性などについて、一定の条件をクリアする必要がある。
共同研究グループは今回、高いエネルギー変換効率と優れた伸縮性、耐水性を同時に実現した有機太陽電池を作製した。理研の研究グループが2012年に開発した有機半導体ポリマー「PNTz4T」を用い、厚みが1μmの高分子材料であるパリレン基板上へ、逆型構造の有機太陽電池を作りこんだ。
作製した超薄型有機太陽電池は、ガラス支持基板から剥がした状態で、高いエネルギー変換効率を示した。例えば、出力が100mW/cm2の擬似太陽光を照射したときの短絡電流密度(Jsc)は16.2mA/cm2で、解放電圧(Voc)は0.71V、フィルファクターは69%、エネルギー変換効率は7.9%となった。この数値は、従来の同様な有機太陽電池の効率(4.2%)に比べると、2倍近い改善になるという。作製した有機太陽電池を約50%までつぶしても、安定的に駆動することも確認している。
作製した有機太陽電池は、極めて高い耐水性を示すことも分かった。水中に5分間浸した後でも、エネルギー変換効率はほとんど低下しなかった。黒水性ペンでデバイス表面に染みを付けても、デバイスを洗剤液に浸してかき回せば、デバイス表面の汚れが取り除かれ、素子性能の低下もなくエネルギー変換効率は初期値に回復したという。
さらに、あらかじめ引張した2枚のゴムで、厚みが3μmの有機太陽電池を双方向から挟み込んだ。これにより、伸縮性を保持しつつ耐水性も飛躍的に向上させる封止を実現した。実験結果から、水中に120分間漬けた後でもエネルギー変換効率は約5%の低下にとどまった。これに対して、ゴム封止されていないデバイスは、変換効率が約20%低下したという。水滴をデバイス上に滴下し一定時間保持しながら約50%の伸縮を繰り返し行った後でも、エネルギー変換効率は初期値の80%を維持していることが分かった。
今回の研究成果について、ウェアラブル機器やe−テキスタイルなどに向けた電源として、早期実用化と用途拡大が期待されている。
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