半導体メーカー各社は、民生機器に変わる半導体アプリケーションとして車載機器、産業用機器向けに注力しているが、どのような戦略が正解かという答えは導き出されていない。また、車載機器、産業用機器市場のユーザーも、どの半導体を選ぶべきかで迷っていると聞く。今回は、発展途上にあるといえる産業エレクトロニクス市場の将来について考える。
国内外の半導体メーカー各社において、PC、携帯電話機、デジタル家電などこれまで半導体需要の中心を担ってきた民生機器アプリケーションに代わって、車載機器、産業用機器向け戦略を立てるべきか、また、ユーザー側でもどのように半導体を選ぶべきか、とい議論がさまざまな形で行われているようだ。だが、「これだ」という結論には、なかなかたどり着かない、という話を耳にしたりする。今回は、その辺に焦点を当ててみたい。
経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOの冨山和彦氏の主張を借りれば、経済圏は「G(グローバル)の世界」と「L(ローカル)の世界」に類別されるという。
Gの世界は、グローバル経済圏で競争が行われ、大企業同士が規模やコストを競い合う世界である。PC、携帯電話機、デジタル家電などの民生機器市場はこの代表的な例であり、世界市場に向けて同一の製品が大量に出荷される。どこで生産されたのか、あるいは出荷先の地域にニーズを合わせて、といったことは重要視されない。生産コストが割安な中国や東南アジア地域でこれらの電子機器が大量に生産されるため、半導体の出荷もこれらの地域に集中することになる。
これに対してLの世界は、特定の地域を意識した世界で、産地を重要視する農林水産業や、その地域でないと実現できないサービス業などがこれに当てはまる。生産地あるいは消費地に、地域の特長が現れるのがLの世界である。
2つの世界は極めて対照的な特長を持っており、それぞれの世界における価値観も大きく異なるので、双方に通用する戦略、などというものは存在しないと考えるべきだろう。では、車載機器や産業用機器は、Gの世界、Lの世界、どちらに属するのだろうか。
半導体を中心とするエレクトロニクス産業は全てGの世界だ、車載機器も産業用機器も例外ではない、という見方が一般的だろうか。産地を意識するわけではない、特定地域限定のサービス業でもない、大手自動車メーカーは世界中の市場に向けてビジネスを展開している、だからLではなくGの世界だと考えれば、確かにそう思えてくる。
しかし、地域によってメーカーのシェアが大きく変化する、という点に着目すると、完全にGの世界だはと言い切れない部分に気が付く。日系自動車メーカーは日本市場でのシェアが高く、欧州メーカーは欧州市場でのシェアが高い。産業用機器市場では、地域によるシェアの変動はもっと大きくなるはずである。
車載や産業機器でなくても、日系PCメーカーは日本でのシェアが高いぞ、という反論もあるかもしれないが、残念ながら日系PCメーカーはトップシェアでも赤字が続いている。Gの世界で勝てなかった結果、日本市場で細々と事業を続けているだけで、現状を放置すれば赤字が拡大する危険性をはらんでいる。これに対して車載機器や産業用機器は、特定地域に依存する事業形態であっても、きちんと利益が出ている場合が多い。Gの世界のように見えるものの、実際には地域の特性が現れるLの世界で事業展開している、というのが実態だろう。そしてこの状況が、今後も継続されるのかどうか、ここをよく見極める必要があるように思えるのである。
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