BroadcomがQualcommに仕掛けた敵対的買収は、「国家安全保障に対する脅威」という理由で発令された大統領令によって阻止された。この理由の是非はともかく、半導体業界では両社の合併に対して懸念の声があちこちで聞かれたのも事実だった。
ある大企業が、別の大企業を買収する場合、その動機となるものは何だろうか。BroadcomがQualcommに敵対的買収を仕掛けた事例で考えてみよう。
BroadcomのCEO(最高経営責任者)であるHock Tan氏の場合は、多額の資金にものを言わせ、大規模な征服の実現に向けて胸躍らせたためではないだろうか。
しかし、Qualcommの元チェアマン兼CEOであるPaul Jacobs氏にとって、Qualcommの買収は、非常に個人的な動機付けによるものと思われる。
Qualcommはもともと、Jacobs氏の父親が共同創設した企業である。Financial Timesが2018年3月16日(米国時間)に報じたところによると、Jacobs氏は現在、Qualcommの過半数の株式を取得するために必要な資金を集めているところだという。同氏としては、Qualcommを非公開企業にしたい考えのようだ。
Jacobs氏にとって、時価総額約930億米ドルのQualcommを買収することが可能なのかどうかは不明だ。イギリスの新聞の報道によると、Jacobs氏の家族とQualcommとの間には歴史的な結び付きがあるものの、同氏が保有するQualcommの株式は、全体のわずか0.1%にも満たないという。Qualcommは1985年に、Irwin Jacobs氏によって設立され、Paul Jacobs氏は2005〜2014年に、チーフエグゼクティブを務めていた。
個人的なつながりはさておき、BroadcomによるQualcommの買収提案は、なぜこれほどまでにエレクトロニクス業界の注目を集めたのだろうか。またJacobs氏は、なぜQualcommの株式を取得したいのだろうか。
Jacobs氏がQualcommを非公開企業にする計画を立てているということは、同氏にとってQualcommが、いかなる代償を払ってでも外国企業や競合他社から守らなければならない、大切な宝物のような存在であるということを示しているのではないだろうか。
政治家たちは今回、両社の合併買収を阻止するための理由として中国の存在を利用したが、その一方で技術業界は、中国とは関係のない全く別の理由から、両社の合併買収の可能性を恐れているようだ。例えばIntelは、自らもBroadcom買収への参加を検討していたほど、大きな懸念を抱いていたという。
筆者はこれまでさまざまな懸念を耳にしてきたが、その中で最も説得力があったのは、「合併後のBroadcom/Qualcommが、5G(第5世代移動通信)対応スマートフォン向けRF技術の分野を事実上独占的に支配することになるため」という理由だ。
フランスの市場調査会社であるYole DéveloppementでRFエレクトロニクス担当アクティビティーリーダーを務めるClaire Troadec氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「5G市場では、サブ6GHz帯、ミリ波帯、IoT向けなど、ユースケースごとにそれぞれ異なる高周波フロントエンド(RFFE)が開発されるとみられている」と述べる。
上記の3つの中で、Broadcomが最も確実に実現できるとみられているのが、サブ6GHz帯向けRFFEモジュールだ。これは、既存の4G RFFEをベースに、それを発展させて開発すると考えられているからである。Broadcomは既に、3Gおよび4G RFチップのサプライチェーンにおいて、最も優れた企業の1つとして位置付けられている。
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