ここ十数年で、CPUのマルチコア化は急速に進んだ。だが、現在主流の逐次型の組み込み系ソフトウェアは、マルチコアのCPUにうまく対応できておらず、性能を十分に引き出せているとは言い難い。早稲田大学発のベンチャーであるオスカーテクノロジーが手掛けるのは、シングルコア用ソフトウェアを、マルチコア向けに自動で並列化する技術だ。
ここ十数年で、CPUのマルチコア化は急速に進んだ。だが、現在主流の逐次型の組み込み系ソフトウェアは、マルチコアのCPUにうまく対応できておらず、性能を十分に引き出せているとは言い難い――。オスカーテクノロジーの社長を務める小野隆彦氏は、このように指摘する。
オスカーテクノロジーは、2013年に設立された、早稲田大学発のベンチャー企業だ。早稲田大学前総長で名誉教授の白井克彦氏、オスカーテクノロジーが手掛ける技術の発明者である笠原博徳教授、ベンチャービジネスの立ち上げで豊富な実績を持つ松田修一名誉教授、そして小野氏の4人によって設立された。
2013年のバレンタインデー(2月14日)のこと。小野氏は白井教授から「ヒマだろう?」と呼び出されたという。「はい、ヒマです」と答えて白井教授の元へと急いだ小野氏は、ある技術を紹介される。
それこそが、オスカーテクノロジーの中核となる「ソフトウェアの自動並列化技術」だった。シングルコア用に作成したソフトウェアを、例えば4コアのCPUであれば、4コアに合わせて自動的に並列化するというツールである。同社はこれを「OSCARTechコンパイラ」という名称のツール/サービスとして展開している。
この技術に感心していた小野氏に、白井氏はこう言った。「これから、この技術を製品化する会社を作るから、お前が社長になれ」。こうして、オスカーテクノロジーが誕生した。わずか10日ほどの出来事だった。
小野氏は、「ソフトウェアを並列化するという考え方は、数百に上るコアを持つスーパーコンピュータ(スパコン)の世界では、20〜30年前から当たり前のことだった。ただ、非常に難しい技術なので、Intelを含め、ソフトウェア並列化の研究者たちは次々を離れていった。そんな中で、笠原教授と木村啓二教授*)は諦めずに、30年以上にわたり粘り強く研究を続けてきた。ソフトウェア自動並列化の業界においては、唯一無二の技術を持っていると言っても過言ではない」と語る。笠原氏はオスカーテクノロジーの顧問を務めているが、IEEE Computer Societyの2018年会長に、日本人では初めて選出された人物でもある。
*)両教授はそれぞれ、早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科に研究室を持っている。
「ただ、両教授が見据えていたのはあくまでもスパコンで、組み込みソフトウェアでも並列化ソフトウェア技術が必要になるとは思っていなかったかもしれない。スパコンの世界で培ってきた技術を、いよいよ民生品に展開できる時代が来たのではないか」(小野氏)
CPUは2005年を過ぎたあたりから、動作周波数や電力密度が限界に近づき、横ばいとなっていた。チップメーカーもそれを十分に認識しており、シングルコアから、4コア、8コア、16コアとマルチコア化することで性能の向上を図ろうとしてきた。だが、「既存の組み込み系ソフトウェアは、ほぼ逐次型で、マルチコアにはうまく対応できていない。4コアを4コアらしく並列して使うことができていないということだ」(小野氏)
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