経団連の「就活ルール」を巡る議論が起こっている。この議論は極めて興味深いもので、筆者としても「どうしても主張しておきたい」ことがある。単なる“就活”の問題だけではなく、日本の教育の在り方や企業の戦略も関わってくる話であり、今回はこのテーマについてさまざまな観点から考えてみたい。
経団連の中西宏明会長は2018年9月3日、「これまで経団連が示してきた大学生の新卒採用の解禁時期などについての指針を、2021年春に入社する学生の就職活動から廃止するべきだ」との考え方を示した。これに対して安倍晋三首相は、「経団連による就職活動ルールをしっかり守っていただきたい」と真っ向から反論するような姿勢を見せた。この議論は極めて興味深いもので、筆者としても「どうしても主張しておきたい」ことがある。単なる“就活”の問題だけではなく、日本の教育の在り方や企業の戦略も関わってくる話なので、今回はこのテーマについてさまざまな観点から考えてみたい。
中西会長のコメントの背景をご紹介すると、
など、多くの企業が直面しているさまざまな課題を踏まえてのコメントである。「経団連としてではなく、個人的な考え」と断っているものの、極めてまっとうで必然的な内容といえるだろう。
これに対して安倍首相は、
という主旨を述べ、中西会長のコメントをけん制する形になっている。
元々、新卒採用の解禁時期が設定されたのは、就活の前倒しや過熱を防ぐことが目的だったので、安倍首相の懸念も理解できる。解禁時期設定を廃止したら、各企業の新卒採用はどんどん前倒しされる可能性は十分に考えられるからだ。では現状のままで良いのか。中西会長のコメントを引用するまでもなく、浮き彫りになったさまざまな問題をこのまま放置したらどうなるのか。
経団連は日本の経済政策に対する財界からの提言および、発言力の確保を目的として結成された組織であり、日本の東証一部上場企業を中心に構成されている。言い換えれば、多くの外資系企業は経団連のメンバーではなく、経団連が設定した新卒採用解禁時期なども意に介する必要がない。1カ月前後のインターンシップ制度を導入している企業も多く、学生の中にはインターンからそのままその企業に就職してしまうケースも珍しくない。筆者も外資系証券会社に在籍中、インターンの学生を何人も見てきたが、積極的にディスカッションしたり、知識を吸収したりしようとする前向きな彼らの姿勢を目の当たりし、そのうちの何人かがそのまま就職してきたことを思い出す。日系企業の中にもインターシップ制度を導入しているところがあるが、期間が数日間、中には1日だけなど非常に短いケースが多い。そんな短い期間に何ができるのか、何のためにこの制度を導入しているのか、むしろ理解に苦しんでしまう事例が多いのである。
「最初から外資系を目指す学生は少数派だから、それは例外と考えれば良い」などと思っている読者がいるとすれば、「それは違う」と申し上げたい。そもそも日本の就活状況が世界の中で悪い意味で異常なのであって、これを是正しない限り日系企業の未来までもがおかしなことになる、と筆者は危惧している。その意味でも、中西会長のコメントは極めて重要であり、安倍首相には「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」という声を荒げたくなるのである。
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