山梨大学、龍谷大学よび、情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所らの共同研究グループは、光記憶結晶にナノメートルスケールでアルファベットのパターンを描画し、消去することに成功した。
山梨大学、龍谷大学よび、情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所らの共同研究グループは2018年10月、光記憶結晶にナノメートルスケールでアルファベットのパターンを描画し、消去することに成功したと発表した。
今回の成果は、山梨大学大学院総合研究部の中込亮氏(博士課程3年)、内山和治助教、堀裕和教授、龍谷大学理工学部物質化学科の内田欣吾教授および、情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所の成瀬誠総括研究員らの共同研究によるもので、光の波長以下で動作するナノ光メモリとしての記録/消去の基本性能を確認した。
研究グループは、フォトクロミック分子の一種であり、熱的に安定している「ジアリールエテン結晶」の光異性化(光による分子の構造変化)現象と、近接場光による励起を組み合わせることで、光情報の記憶をナノメートルスケールで実現する可能性を探ることにした。
これまで研究グループは、フォトクロミック結晶表面の1点に近接場光励起を加えると、結晶の裏面にナノメートルスケールの光異性化パターンが形成されることを、先行研究によって明らかにしていた。今回は、複数点励起によるパターン状の光異性化を、結晶表面の形状変化として捉えることに成功した。
実験ではまず、光異性化によって大きな構造変化を示す新しいジアリールエテン分子を合成し、結晶試料を作製した。一般的なジアリールエテンと比べ構造変化が数倍も大きいため、光異性化に伴う機械的ひずみも大きくなり、表面形状の変化を観察するのに適しているという。しかも、周辺に対して光異性化の広がりが強く抑制されるため、局所性の優れた光異性化を可能とした。
次に、光支援型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、近接場光による励起と光異性化の観察を行った。観測に用いる赤色レーザー光が顕微鏡探針の先端に当たり、先端曲率半径(今回は8nm)と同程度の範囲に近接場光を発生させる。この近接場光を結晶表面に作用させて局所的な光異性化を起こし、その形状変化をAFMで観察した。
実験では、昇華法で育成した透明な結晶を、紫外光にさらして赤紫色に着色。この表面にAFM探針を近接させ、その先端から発生する近接場光を約30秒間作用させた。この結果、作用した部分だけが光異性化され透明となった。この時、「へこみ」が生じるという。光異性化は約30nmの範囲に限定されており、使用した波長(670nm)に対して、20分の1以下の微細な書き込みを行えることが分かった。
さらに、近接場光励起を二次元的に複数点加えた。これにより、アルファベットパターンの形成に成功した。針で表面をなぞりながら、パターン全体に局所光異性化を均一に加えると、パターンの消去が可能であることも確認した。
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