東北大学は、米国マサチューセッツ工科大学との国際共同研究により、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の高性能化や低温作動を可能にする「n型混合導電体」を開発した。
東北大学大学院工学研究科の高村仁教授らは2019年4月、米国マサチューセッツ工科大学との国際共同研究により、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の高性能化や低温作動を可能にする「n型混合導電体」を開発したと発表した。
水素エネルギー社会の実現に向けて、SOFCなど高温電気化学デバイスが注目されている。SOFCの普及を一段と加速するため、セルの高性能化や動作温度の低温化を実現する研究も進んでいる。そのカギを握るのが、酸素還元反応を担う正極(カソード)材料の活性を高めることだといわれている。
これまで正極材料には、コバルトや鉄を含む混合導電体が用いられてきた。この材料は正孔(ホール)と酸化物イオンが電気伝導を担っていることから、「p型混合導電体」と呼ばれている。しかし、p型は電子がエネルギー的に低い位置にあり、酸素還元反応には不利だといわれている。
そこで研究チームは、電子と酸化物イオン伝導共存するn型混合導電体の開発に取り組んだ。より効率的に電子を供給することで、酸素還元反応を促進することができるためだ。ところが従来の手法だと、アクセプター置換方式で混合導電体を作製していたため、高温酸化性(大気)雰囲気では安定したn型混合導電体を実現できなかった。
今回は、多量の規則化した酸素空孔をもつブラウンミレライト型構造のBa2In2O5をホスト材料として、Ba2+の位置にNd3+を、In3+の位置にMn4+を、それぞれドナーとして置換した。これによって、ペロブスカイト型構造を安定化させることに成功した。
ドナー置換されたペロブスカイト型構造のBa0.9Nd0.1In0.7Mn0.3O3-δは、酸素空孔が結晶中に残存している。加えて、ドナー置換では電子も同時に生成するため、n型混合導電体を実現することができた。電気伝導度の温度や酸素分圧依存性、酸素透過性、酸素濃淡電池、ゼーベック係数等の測定を行った結果、750℃近傍の高温・大気中でも安定してn型混合導電性を発現することを確認した。
研究チームは今後、開発したn型混合導電体を、現行SOFCの正極材料に適用し、特性などを検証することにしている。さらに、SOFC以外の高温電気化学デバイスに対する応用なども検討する予定だ。
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