“AppleとQualcommの和解”から、5G用通信半導体に関わるさまざまな事情が明らかになってきた。結論を一言でいえば、“最先端の5G通信半導体(の特許)がボトルネックになる時代が到来した”ということになる。本稿では、その詳細を論じる。
AppleとQualcommのスマホ用半導体を巡る特許訴訟の審理が、2019年4月15日に米カリフォルニア州サンディエゴ連邦地裁で始まった……と思ったら、翌4月16日に和解してしまった。
この訴訟は、Qualcommが特許使用料を過大に請求していたとAppleが主張したことが発端になっている。AppleはQualcommに対して、反トラスト法に基づいて“推定被害額”の3倍となる90億ドルを支払うよう求めた。
一方、Qualcommは、Appleに対して、米国内外で知的財産侵害の訴えを起こした。そして、2019年3月には米国際貿易委員会の判事が、Qualcommの主張の一部を認め、Appleの一部製品について米国への輸入を禁じる勧告をしている。かつて7年間ももめ続けたAppleとSamsung Electronicsの訴訟合戦のように、AppleとQualcommの裁判も泥沼化するかもしれないと思っていただけに、たった1日のスピード解決に、拍子抜けしてしまった。
この和解により、AppleはQualcommに対して、6年にわたり45億〜47億米ドルのライセンス料を支払い、複数年の通信半導体供給を受けることで合意した(日本経済新聞2019年5月2日付)。これで、Appleは5G(第5世代移動通信)対応iPhoneを開発することができるし、QualcommもIntelに奪われていたApple向け通信半導体のビジネスを再び行うことができる。両社にとって、メデタシ、メデタシであろう。
しかし、“AppleとQualcommの和解”から、5G用通信半導体に関わるさまざまな事情が明らかになってきた。結論を一言でいえば、“最先端の5G通信半導体(の特許)がボトルネックになる時代が到来した”ということになる。本稿では、その詳細を論じる。
QualcommとIntelの株を両方持っている友人が、和解のニュースの後に大喜びしていた。和解後に、Qualcommはもちろん、Intelの株価が高騰したからだ。Qualcommの株価が上がるのは分かるが、Apple向けの通信半導体ビジネスをQualcommに奪われたIntelの株価がなぜ上がるのか?
高速で遅延の少ない無線通信を目指す5Gではミリ波の周波数帯を使うことから、米Signals Research Groupの社長であるMichael Thelander氏は「幅広い無線通信の知識が必要で(現行の)4Gの通信半導体を手掛ける企業でも5Gへの対応は容易でない」と話す(前掲の日経新聞)。
その上で、Intelは2016年からiPhone向けに4G用通信半導体を供給しているが、主力はPCやデータセンター向けのプロセッサであるため、Thelander氏は「Intelの5G開発が難航したことが、AppleとQualcommを結び付けたのではないか」と推察している。
要するに、Intelをもってしても、技術的に難しい5G用通信半導体の開発は困難だったわけだ。そのような困難な開発を行う必要がなくなり、“Appleの重荷”から解放されたために、Intelの株価が上がったのだろう。
また、Apple向けの通信半導体の製造は、Intelの14nm工場を過密にする一要因になっていたかもしれない。Intelの14nm工場が過密状態であるため、世界的にプロセッサの供給不足となり、その結果、DRAMやNAND型フラッシュメモリが市場にあふれ、価格暴落を引き起している(関連記事:Intel 10nmプロセスの遅れが引き起こしたメモリ不況)。
従って、AppleとQualcommが和解し、IntelがApple向けの通信半導体を製造する必要がなくなったら、メモリ不況が解消される方向に向かうかもしれない。これは、メモリメーカーにとっても朗報だ。
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