一方で、日本ではさまざまな思惑がありTTNが普及していないと宮原氏は述べる。「現在、日本ではコミュニティーが26、ゲートウェイは80基ほどしかない」(同氏)
同氏は、TTNを使う大きなメリットは2つあると説明する。まずはカバーエリアだ。キャリアが提供するネットワークは、人口カバー率で見ると高いが、人がまったくいない山間部や人口が極端に少ない地域ではネットワークが構築されていないことも多い。ただ、そもそもIoTは、人が行かないような山間部や遠隔地で使いたいというケースも多いはずだ。そのような時にネットワークがつながらないのでは、意味がない。その点、TTNでは、「山の中でも湖の上でも、自分が置きたい所にゲートウェイを設置できる」(宮原氏)
2つ目がイニシャルコストとランニングコストだ。IoTネットワークでは一般的なイニシャルコストとして、センサーノードやゲートウェイの購入費に加え、センサーノードをゲートウェイに登録する手数料などが掛かる。
ランニングコストでは、さらにコストが必要だ。最近は「NB-IoTを月額通信料100円で使用できる」といったサービスも登場するが、それはあくまで1ノード当たりの金額なので、多数のノードを使う場合はそれだけコストが増えていく。これに、IoTプラットフォーム利用料、プラットフォームからクラウドへのアップリンク料(従量課金制)、クラウド利用料などが追加される。ランニングコストはあっという間に膨大な金額になってしまう。これでは、IoTの普及がなかなか加速しないのも当然だろう。
「一方でTTNでは、実質的に発生するランニングコストはクラウド使用料のみ。これが、欧州におけるLoRaWANの常識になっている」と宮原氏は強調する。
さらに宮原氏によれば、The Things Networkは今後、数千円レベルのゲートウェイを発売する予定だという。一般的なゲートウェイの平均価格は5〜6万円なので、これは格安だといえる。
The Things Networkをめぐっては、興味深い動きもある。例えばArmはThe Things Networkとパートナーシップを締結し、LoRaWANスタックが標準搭載された組み込み向けOS「mbed OS」を既にリリースしている。これにより、mbed OS対応の組み込み機器のFOTA(Firmware Over-The-Air)アップデートを、LoRaWANでできるようになっている。宮原氏によれば、これには、車載メーカーが高い関心を持っており、既に投資も始めているという。
中国Tencentも2019年1月にThe Things Networkとのパートナーシップ締結を発表した。LoRaWANのエコシステムを中国市場で拡大することを目指すとしている。Tencentの狙いとしては、セルラーネットワークがない場所でも、LoRaWANが構築されていれば、同社が提供するモバイル決済サービス「微信支付(ウィーチャットペイ)」を使えるようにすることもあるだろう。
これまで中国のLPWAは、Huaweiが注力しているNB-IoTが中心的な存在だったが、米中貿易摩擦でHuaweiが狙い撃ちにされている今、「LoRaWANに注力する方向へとシフトしているのではないかと考えられる」と宮原氏は見解を述べる。
さらに、欧州のベンチャー企業であるLacuna Spaceが、LoRaWANベースのゲートウェイを搭載した衛星を2019年中に打ち上げるという計画もある。欧州全域をカバーするLoRaWANを構築することが狙いだ。
このように、欧州ではLoRaWANの導入と普及が拡大している。宮原氏は、「日本も、キャリアの取り組みを待つだけでなく、自らLoRaWANを構築して使用していくことを検討してもいいのではないか。当社が提供するラズパイ向けのLoRaWAN対応拡張モジュールを使えば、安価にそれができるので、ぜひ利用してほしい」と語った。
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