なぜ技術メーカーや自動車メーカーは、高性能自動運転車の開発のためなら何でもするのだろうか。
パネルディスカッションにパネリストとして参加した、電気自動車の新興企業Bytonで自動運転部門担当ディレクターを務めるWesley Shao氏は、「(自動運転車の開発は)コストや安全性のためというよりも、自動車メーカーが生き残るためのすべである」と単刀直入に述べた。筆者はこれを聞いて、安堵の気持ちを抱いた。
同氏のこのような正直な考え方が、パネリストたちにも広がっていった。
NXPのバイスプレジデント兼オートモーティブイーサネットソリューションズ部門担当ゼネラルマネジャーを務めるAlexander Tan氏は、未来の自動運転車業界について、2つのシナリオを語った。1つは、特に都市部において、自動運転技術を基準としたモビリティサービスが台頭するというもの。もう1つは、自動運転車の保有が普及するというシナリオだ。
Tan氏は、「いずれのシナリオにも、“安全性とコスト”という2つの相反する要素が含まれている」と述べる。
もし、自動運転車の安全性が極めて高いことが実証されれば、誰もがすぐに自動運転車を購入し、法的支援も提供されるようになるだろう。しかし現在のところ、消費者が所有する自動車で使われている一般的なアーキテクチャでは、モビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)向けに開発された自動車に対して、コスト面で競争することは不可能だ。
Tan氏は、「自動車メーカーが、アーキテクチャを変更することでさまざまな機能を適切なコストでサポートするというイノベーションやビジョンを実現しない限り、自動車メーカーは、古いモデルにとらわれたまま、自動運転車開発の競争において打ち負かされることになるだろう」と予測する。
もしこれが、自動車メーカーにとって恐ろしいシナリオではないと言うなら、どのようなシナリオに恐怖を感じるのだろうか。
LiDAR(ライダー)メーカーのLuminar Technologiesで戦略イニシアチブ担当シニアバイスプレジデントを務めるVijay Albuquerque氏は、「自動運転車業界は、今もまだ開発段階にある。自動運転車の運転レベルは現在のところ、有能な人間のドライバーにははるかに及ばないという状況にある」と述べている。
Albuquerque氏は、「人間はこれまで100年以上にわたり、両目だけを使って、実にうまく自動車を運転できるということを実証してきた。一方、コンピュータにとって自動車の運転は、特に99%〜100%に近い信頼性で確実に運転することが期待されるとなると、決して簡単なことではないと分かった」と述べている。
同氏は、「ここで一度、信頼性に関する問題は置いておき、人間のドライバーが運転から離れた場合のデータについて検討してみたい」と述べる*)。
*)米国カリフォルニア州の公道で実施された自動運転車の走行試験では、走行距離の他、人間が運転から離れたために危険性が生じ、人間のドライバーによる制御が必要とされた頻度などの情報を開示することが、法律によって定められている。
Albuquerque氏は、「公開されている情報を見ると、自動運転車が人間のドライバーと同等レベルで運転できるようになるのは、まだ数十年も先になるのではないかと思う」と述べた。
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