20回にわたり続けてきた「働き方改革」シリーズも、今回で最終回を迎えました。連載中、私はずっと、「働き方改革」の方向性の妥当性は認めつつ、「この問題の解決はそれほど簡単なことではない」という反骨精神にも似た気持ちの下、それを証明すべく数字を回してきました。これは“政策に対する、たった1人の嫌がらせ”とも言えます。そして最終回でも、この精神を貫き、“たった1人の最後の嫌がらせ”をさせていただこうと思っています。
「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」として政府が進めようとしている「働き方改革」。しかし、第一線で働く現役世代にとっては、違和感や矛盾、意見が山ほどあるテーマではないでしょうか。今回は、なかなか本音では語りにくいこのテーマを、いつものごとく、計算とシミュレーションを使い倒して検証します。⇒連載バックナンバーはこちらから
2年前に、EE Times Japan編集部から「働き方改革」についての連載をオファーされた時、正直、かなり戸惑いました。
「働き方を変えなければならない」 ―― 私は、これまでの社会人としての人生の中で、今回を含めて4回このフレーズを聞いたと思います。最初は1990年頃で、当時の「働き方」とは、「時短」のことでしたが。
下図は、Googleトレンド*)を使って、”働き方”、”時短”、”過労死”のニュースヘッドラインの数を調べてみたものです。「働き方を変えなければならない」ブームは10年単位で発生しているようです。
*)Googleトレンドは2003年までしかさかのぼれません。
これまでの「働き方改革」は、基本的に過労死(自殺)事件を契機にブームとなっているようです。被害者が若者や女性の場合にこのブームは顕著に現われます(おっさんは、どうでもいいみたい)。ブームになると、法律や制度が動きます。ですから、10年単位で発生するブームにはそれなりに意義はあると思います。
私は、今回のオファーに対して、「『働き方改革』のブームに便乗するだけの連載なら、引き受けたくないな」と思ったのです。「どうせ、これまでと同じようにブームで終わるだけだ」と思っていたからです。
とはいえ、オファーを頂いた以上、ちゃんと検討する必要はありましたので、EE Times Japan編集部の方との打ち合わせ後、私は、内閣府の資料を片っ端から読みまくりました。そして、日本国政府の意図が分かってきました。
―― これは「働き方改革」という形を装った「我が国の問題点の見える化」だ
と。
これは「働き方改革」という名を使った「近未来予測」であり、政府は私達に「考え方を変えろ」「やり方を変えろ」と言っている。特に「我が国の高度経済成長を支えてきたやり方、考え方を、全部ドブに捨て去って、パラダイムをシフトしろ」と言っている。
さもないと、
―― 私たち日本人に未来はないぞ
と言っていると、悟りました。
「政府」というのは、基本的に「権力」です。「権力」というのは、体制を守るべく「変えないこと」、つまり、保って守ること(保守)にその存在意義があります。
ところが、今回は、権力サイドが「お前たち国民が、がんばって変われ」と背中を突ついている、という、奇妙なことが起きており、私は興味が湧いてきました。
その一方で、私は、政府の「働き方改革」の方向の妥当性を認めながらも、資料の数々を読んでいるうちに、この問題の難しさを(理解しているのかもしれないけど)スキップしている様にも見えてきて、「どんどん不愉快な気分」になっていきました。
―― そんなに、うまくいくか?
何そんなに簡単に言ってくれちゃっているてるわけ? めちゃくちゃ難しいよね、これ? 詳細検討できているの? 抵抗勢力、ギガ盛りだよ?
政府がこれらの問題に気がついていないのか、気がついているけど気が付かないフリをしているのか、それは分かりません。どちらにしても、これが「簡単でないこと」を言いたくなってきました。
ならば、私のやり方(ロジックと数字とインターネットとパソコン(のシミュレーションプログラム))で、政府の政策にケチをつけてやる。
つまり「たった一人の嫌がらせ」―― こうした、私のひん曲がった精神が、この連載のきっかけになったのです。
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