高濃度層の形成は、高密度にトランジスタセルを配置しても低抵抗を維持できるようにするための技術だ。先述した通り、トレンチ型ではトランジスタの配置間隔を狭くして、パワー半導体素子として高密度化できる点がメリットだが、間隔を狭め過ぎると、トランジスタセル間の電流が流れにくくなり、素子抵抗率を低く抑えることが難しくなる。そこで、トレンチの側面部(前出の「側面接地部」とは反対側)に窒素を注入し、通電しやすい高濃度層を形成することで電流を流しやすくした。その結果、高濃度層を形成しなかった場合に比べて、素子抵抗率を約25%低減できたという。
さらに三菱電機は、側面接地部や高濃度層を形成するために、トレンチの側壁に対して斜め上から不純物を注入する「斜め注入」を開発して適用した。トレンチ型SiC-MOSFETの量産時に、より簡単に、側面接地部と高濃度層を形成できることを狙ったという。
これらの技術により、開発したトレンチ型SiC-MOSFETでは、耐圧1500V以上を維持しつつ、素子抵抗率は、プレーナー型SiC-MOSFETの約半分となる1cm2当たり1.84mΩを実現したと、三菱電機は強調した。
三菱電機は、2021年度以降の実用化を目指して今回発表したトレンチ型SiC-MOSFETの開発を進める。適用する分野としては家電や産業用機器など、電圧が低い領域を挙げた。「電圧が高めの鉄道車両にも適用できないわけではないが、今回開発したトレンチ型SiC-MOSFETの特長を、より生かすことができるのは電圧が低い領域だ」(三菱電機)
素子のサイズについては「小型のものから大型のものまで試作しているが、5mm角が標準的になるのではないか」(同社)とした。
三菱電機は、プレーナー型SiC-MOSFETについては既に商品化しているが、次世代のパワー半導体素子では、ディスクリートでもモジュールでも、トレンチ型SiC-MOSFETの採用を増やしていくという。ただし、「プレーナー型からトレンチ型に置き換えていくわけではなく、プレーナー型にもニーズがあるので、両方を並行して生産していこうと考えている」と述べた。
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