Armは現在、カスタム命令をサポートしている他の企業からは後れを取っているが、こうした機能の必要性を度々訴えてきた顧客企業への対応をこれから進めることになる。たった1個の特定の命令によって、短いクロックサイクルで低消費電力化しながら、性能や電力効率を大幅に向上できることもあるのだ。新しい命令は、同じレジスタを使用するが、ロジックを追加する必要があるため、ダイ面積を拡大したり設計期間を延長したりするための投資が不可欠となる。
新しい命令は、標準的なArm命令でインターリーブされている。Armは、「顧客企業は、主にライブラリ機能の中でカスタム命令を使用することにより、ソフトウェアフラグメンテーションを回避して、一貫性のあるソフトウェア開発環境を維持することができる」としている。
Armは、顧客企業がCortex-M33でカスタム命令を使用する最初の用途例として、ストレージコントローラーとモデムを想定している。この新機能は2020年に、Cortex-M33向けに無償アップグレードとして提供される予定だ。
Cortex-Aコアに関しては、Armがカスタマイズ可能な命令を提供できるようになるまでの道のりはまだ遠いという状況にある。しかし、同社は将来に向けて、新しい命令とセキュリティ拡張の準備を進めているところだ。
Arm TechCon 2019では、次世代のコアである「Hercules」に続く次々世代コアとして「Matterhorn(開発コード名)」を発表している。このプロセッサコアは、機械学習やニューラルネットワークなどで広く使われている行列乗算(General Matrix Multiply:GEMM)を高速化すべく、新しい命令を追加する予定だという。
Armによると、新しいMatterhornコアは、ニューラルネットワーク向けのGEMMで、10倍の性能向上を実現できる見込みだという。また、CPUコアやキャッシュ全体に対して、新しいセキュリティ対策を講じる予定だとしている。このようなセキュリティ拡張により、ポインター認証を管理できるようになる他、“Branch Target Identifiers”や“Memory Tagging Extension”などの機能を提供することも可能だ。Armはこの他にも、新しい機能に準拠したPlatform Security Architecture(PSA)EL2を提供する予定だという。
Armは2019年7月初めに、新しいライセンスプログラム「Arm Flexible Access」を発表し、顧客企業が、同社の最も評判の高い一部のIPを安価に利用できるようにした。顧客企業は、ライセンス契約を締結しなくても、IPを利用してチップをテープアウトすることが可能だ。このArm Flexible Accessプログラムの1年間当たりの料金は、テープアウトの回数が年1回のみの場合は7万5000米ドル、無制限の場合は20万米ドルに設定されている。これにより、Armコアを使用し始める際の金銭的な障壁が引き下げられることになった。
このような変化を見ると、ArmがRISC-Vに対して競争意識を持っているということがよく分かるだろう。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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