産業技術総合研究所(産総研)は、走査型電子顕微鏡(SEM)中で行うエネルギー分散型X線分光法(EDS)計測を用いた元素分析において、これまでより2桁以上も高い空間分解能で可視化する技術を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)は2019年11月、走査型電子顕微鏡(SEM)中で行うエネルギー分散型X線分光法(EDS)計測を用いた元素分析において、試料の支持基板を工夫するなどして、これまでより2桁以上も高い空間分解能で可視化する技術を開発したと発表した。
今回の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」として行われている「CNT(カーボンナノチューブ)複合材料評価の基盤技術開発」で取り組んでいる開発テーマの1つ。産総研ナノチューブ実用化研究センターCNT評価チームの中島秀朗産総研特別研究員や森本崇宏主任研究員、小橋和文主任研究員および、岡崎俊也研究チーム長兼同研究センター副研究センター長らの研究グループによる成果である。
SEM-EDS法による計測は、元素組成を簡便に定量分析する手法として広く用いられているという。ただ、元素放出や帯電現象が生じるため、これまではCNTなどナノメートル級の材料を、高い精度で分析することは難しいといわれてきた。
一方で、CNT材料開発においては、CNT表面に官能基を導入して機能性を高める動きが強まっており、表面官能基の分布を正しく評価し、最適化することが必須となっている。そこで今回、高い空間分解能が得られるSEM-EDS法の開発に取り組んだ。
課題を解決したポイントの1つが、観察用の支持基板として窒化物基板を採用したことである。これにより、酸素など環境元素の放出を抑え込むことに成功した。その上、支持基板上にメッシュ状の金属パターンを作製することで、帯電現象もほぼ抑え込むことができた。
さらに、四素子一体アニュラー型シリコンドリフトEDS検出器を用いることで、試料からのX線信号を効率よく検出できるようにした。これらの技術開発により、10nm以下の高い空間分解能で、元素イメージングを可能とした。
実験では、スーパーグロース法の単層CNTを、過マンガン酸カリウム/硫酸溶液中で酸化処理し、表面にカルボキシル基(-COOH)などの官能基を導入した試料を用意し、開発した技術の評価を行った。この結果、EDSによる炭素元素のイメージングでも、SEM画像で観察されるCNTバンドルを鮮明に観測することができた。酸素元素のイメージングでも高い空間分解能が得られたという。
さらに、表面官能基に含まれた酸素元素によるX線強度を、CNTに含まれた炭素元素によるX線強度で規格化したOC比を可視化した。この結果、CNTバンドルの測定位置ごとにOC比が異なり、表面官能基が不均一に導入されていることが分かった。また、OC比の違いは、SEM画像で観測されるCNTバンドルの解繊状態と相関があることも明らかとなった。
今回開発したSEM-EDS技術は、ナノ粒子や酸化グラフェンなど、さまざまなナノ材料系の分析や評価に活用できるとみている。
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