光トランシーバーのForm Factor規格は、前述のMSA規格と呼ばれる複数のメーカーによる合意規格である。
MSA規格は同じ目的や問題意識を有したメンバーの合意規格のため作成期間が短く、アプリケーション、マーケットやユーザーが明確で、メンバー企業にとってビジネス的にも有効な規格化方式である。MSA規格は業界の利害関係のある会社が会合を開いて決定していくため透明性や公開性が要求され、規格はインターネットなどで公開される。ただし、混乱を避けるため最終合意後に発表されることが多く、メンバーに優位な仕組みとなっている。このようにビジネス戦略の側面を持つため、乱立しやすいという欠点もある。
光トランシーバーのMSAは1990年ごろにシステムベンダーがセカンドソースによる高品質で低価格の製品を得るために登場した。Multi-Source Agreementという名称もそこに由来する。しかし、先端光通信技術は光デバイスから装置まで垂直統合されたシステムベンダーの差別技術として開発されており、システムベンダー間の仕様の統一は困難であった。
データコム応用を目的としたFibre ChannelのGBICの規格化を受け、1998年に2.5G以下の光伝送に適用する、より小型のSmall Form Factor(SFF) Transceiverという名称のMSAが結成された。このMSAは、垂直統合されたメーカー、Lucent、Nortel、Siemens、HP、Sumitomoがメンバーであり、このような競合メーカー間で結ばれた最初の本格的なMSAとなった。SFFは成功したMSAとなり、GBICの後継であるSFP(Small Form-factor Pluggable)の規格に大きな影響を与えた。
続いて2000年に結成された300-pin MSAは、初めての10GのForm Factorであった。このMSAはさまざまな意味で注目されたMSAである。当時、10G光伝送技術は光デバイスから装置まで大手テレコムシステムベンダーのものであった。伝送モジュールはディスクリート部品で構成され、送受信別のボードサイズだったのだ。送受を一体化し、手のひらサイズに収納する300-pin MSAが、いかに画期的なForm Factorであったかが分かるだろう。
300-pin MSAはインターネットそしてドットコム時代の幕開けを迎え、社内に光技術の開発部隊を持たないIP(Internet Protocol)システムベンダーとの戦略の中で結成された。MSA仕様書には光や電気インタフェースの新しい仕様が詳細に掲載されている。MSAメンバーとIPシステムベンダーは協力して、この規格をIEEE802.3において光インタフェース仕様を標準化し、OIF(Optical Internetworking Forum)において電気インタフェースを規格化した。このIEEE802.3とOIFを中心とした光と電気インタフェースの規格化の流れは現在も続いている。
この新しい10G MSA規格を達成するために小型・低消費電力化に向けた新しい技術が開発された。10G動作のDFBが開発され、高速動作を可能とするSiGe(シリコンゲルマニウム)を用いたSERDES(パラレル・シリアル変換)ICが開発された。MSAを発表する時点では開発にメドがついており製品化が待たれていた。
300-pin MSAの成功を機にMSAの重要性が認識され、MSA競争時代へ突入した。
それまでは光伝送に関わる先端技術はテレコムシステムベンダーの垂直統合構造の中で囲い込まれていたが、一夜にして表舞台に登場したのである。これは、情報通信システムの市場が、テレコムからIPシステムやデータセンターに急速に移行したことが背景にある。また、その数量規模が従来のテレコムに比較し桁違いであることがサプライヤーには重要であった。
ちなみにMSAのメンバーに時代の変遷を見ることができる。図2に、仕様書のヘッダにあるメンバーの変遷を示す。創立時はLucent、Alcatel、日立という日米欧の垂直統合システムベンダーの光伝送モジュール部門によって結成されたが、その3社の名は消えていき、垂直統合メーカーからのスピンオフと専業メーカーが主となっている。
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