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5G 人からモノへ 〜「未踏の時代」迎えた無線技術 特集

5Gの導入で変わる? RFチップの材料Siの代替材料が期待される(1/2 ページ)

「Mobile World Congress(MWC) 2020」の中止にもかかわらず、特に5G(第5世代移動通信) RFのフロントエンドモジュールでシリコン性能の限界に到達しつつあるエレクトロニクス企業の中で、5Gの追及は時間単位でより劇的に高まっている。

» 2020年03月06日 11時55分 公開
[Junko YoshidaEE Times]

5G向け部品で注目が高まるSi代替材料

 「Mobile World Congress(MWC) 2020」の中止にもかかわらず、特に5G(第5世代移動通信) RFのフロントエンドモジュールでシリコン性能の限界に到達しつつあるエレクトロニクス企業の中で、5Gの追及は時間単位でより劇的に高まっている。

 シリコンにとって代わる材料の候補には、窒化ガリウム(GaN)、ガリウムヒ素(GaAs)、炭化ケイ素(SiC)の他、フィルターの改良に用いられている圧電物質がある。GaAsは4Gならびに5Gスマートフォンのパワーアンプに用いられてきた。GaNは5Gミリ波市場でパワーアンプ向けに勢いを増し始めている。

Soitec CEOのPaul Boudre氏

 SoitecのCEOであるPaul Boudre氏は、スペイン・バルセロナで2月に行われたEE Timesのインタビューで、「自らの課題を解決するための新材料」を探し求めるRFファブレスチップ企業がますます増えていると述べた。

 フランス・グルノーブルに拠点を置くSoitecは、CEA-Letiとともに、SOI(Silicon-On-Insulator)を手掛ける企業だ。Soitecは既にRF SOIウエハー(RFチップ企業がスマートフォン用のスイッチやアンテナチューナーを製造するために用いている)で大きな成功を収めているため、複合材料という新しい世界へ進出することで事業を拡張する態勢ができている。

 Boudre氏は、「自社で設計した基板をベースとした新材料」を、ファブレスチップ企業向けに「開発、生産、提供するための」Soitecの計画について説明した。新材料を模索するSoitecでは、次のような動きがある。

  • POI(Piezoelectric-On-Insulator)で作られた基板の開発。4Gならびに5G NR(New Radio)帯域幅向けの高性能SAW(Surface Acoustic Wave)フィルター部品を製造するために用いられている
  • GaN-on-Si、GaN-on-SiCエピウエハーの開発。Soitecは2019年、ベルギーimecのスピンオフであるEpiGaNを買収した。EpiGaNはエピウエハーを開発した企業である。Soitecは、EpiGaNを自社に組み入れ、必要なツールに融資することで、5G GaNパワーアンプ市場に向けた大量生産基盤に参入しようと計画している
  • Soitecは2020年、独自のプロセス技術「Smart Cut」をベースにしたSiCウエハーのサンプル出荷を開始する計画だ

 「Smart Cut」は、ウエハーボンディングおよびレイヤー分割の技術で、1枚の高品質ウエハーから複数枚のウエハーを生産する方法である。ある材料の単結晶層を成長させて、その層を一つの基板から別の基板へと移行する。

 Soitecの目標は、Smart CutをSiCに適用することで、コストと質の両面から、基板そしてデバイスレベルでSiCを大幅に改良することである。

 Soitecの製品の大半は、Smart Cut技術が活用されたFD-SOI(完全空乏型SOI)ならびにRF-SOI基板をベースにしている。Soitecは最近、同じようにSmart Cutを用いることにより、POIについても量産段階に移行した。次はSmart CutをベースにしたSiCウエハーで、2020年後半にサンプル出荷を予定しているという。

なぜ、SiCなのか

 しかし、なぜ今SiCなのだろうか。SiCは現在、需要が急増しているものの、2つの大きな問題に直面している。1つ目は、十分な量のSiCウエハーを確保することができないという点。そして2つ目は、歩留まりがかなり低いという点である。

 Soitecは、こうした問題を考慮した上で、「Smart Cut」技術を適用した新しいSiCウエハーを開発した。まず、基板上のSiCレイヤーの品質を大幅に改善し、さらに、既存の6インチSiCウエハーから8インチウエハーに移行することによって、コストの削減にも成功したという。同社は現在、フランスのグルノーブルにSiCウエハーの試作ラインを保有している。

 Soitecは2019年秋に、こうした取り組みを強化すべく、Applied Materialsとの共同開発プログラムを発表した。Applied Materialsは、Soitecとの協業により、SiC技術向けの材料工学イノベーションの分野に携わっていきたいとしている。

SoitecのThomas Piliszczuk氏

 Soitecのグローバル戦略部門担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるThomas Piliszczuk氏は、「Smart Cut技術をベースとしたSiC向け市場の中で、大規模化していく可能性を秘める分野として、2つが挙げられる。1つは、EV(電気自動車)インバーター向け市場で、主にバッテリー寿命の延長の実現を目標とする。そしてもう1つは、パワーアンプの高効率化と高い線形性が求められる、5G基地局の需要を確保するための市場だ」と述べる。

 Boudre氏に、「現在市場において、SiCウエハーが不足しているという点を考慮すると、Soitecはどのようなビジネスモデルを展開していくのか」と尋ねると、「それはいい質問だ。われわれは、SiCウエハーメーカーにもなれるし、ライセンス供与によって他の企業との協業も可能だ。いずれにせよ当社としては、SiCウエハーの供給を強化することによって、品質向上を実現し、6インチウエハーへの移行を推進していきたい考えだ。そうすれば、SiCウエハーのコスト構造の競争力を高められるようになる」と述べている。

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