英国の政府が、通信事業者との間で、契約者の位置データにアクセスできるようにすることを検討し始めているという。狙いは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離)戦略に関するガイドラインを確実に実施し、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大を阻止することだ。
英国の作家ジョージ・オーウェルのSF小説「1984」には、「Big Brother is watching you(独裁者が全ての人々を監視している)」という非常に危険な状況が描かれているが、特に前例のない時代では、その危険性がさらに高まる。その英国の政府が、通信事業者との間で、契約者の位置データにアクセスできるようにすることを検討し始めているというのも、驚くようなことではないだろう。狙いは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離)戦略に関するガイドラインを確実に実施し、また必要な場合は強制的に実施することにより、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大を阻止することにある。
こうした動きは、政府が技術メーカーに対して、コロナウイルス感染症の拡大を阻止するために必要な関連リソースの提供を要請できるようにするための取り組みの一環だという。
英国の他にも、特にイスラエルや台湾、韓国、イタリアなどをはじめとする数カ国が、同様の取り組みを進めているところだ。
通信事業者大手のBT(British Telecommunications)の広報担当者は、「技術者たちは現在も、パンデミックとの戦いの中で、どのようにモバイルデータを活用すれば医療当局をサポートすることができるのか、その可能性を模索しているところだ」と述べている。
確かに通信事業者は、コロナウイルスの動きを広範に予測することが可能なモデルの構築を実現する可能性を秘めている。
モバイルデータを利用すれば、社会的距離戦略の有効性について評価できるだけでなく、疾病の無症状保菌者の動きを追跡することも可能だ。このため規制当局が、既にコロナウイルスに接触した可能性がある人物の特定や検査を、より高い精度で実施できるようになると考えられている。
しかしBTは、この手法について、「厳格なプライバシーガイドラインの範囲内で、個人の特定やマッピングなどを実行するのは不可能だ」と主張する。
アイデアとしては、匿名の集合体としての形で収集したデータを、感染者の広がりをマッピングするために使用するという。しかし万が一、情報が無差別に使用された場合、契約者の日常的な居場所まで記録されてしまう恐れがある。
このため、プライバシー関連の活動家たちが、「大量の個人識別データを提供するということは、一線を踏み超え、いったん状況が平常時に戻った場合に引き返せなくなるということを意味する」と直ちに指摘したのも当然だ。
台湾は今回、コロナウイルスに対して効果的な措置を講じたことで世界から称賛を得ているが、既に、スマートフォンの位置情報追跡機能を使用して、隔離手順が完全に順守されているかどうかを確認することが可能な、「電子フェンス」と呼ばれる機能を発表している。報道によると、もし封鎖地域の住民が外出した場合、警察は、直ちにその情報を受けて措置を講じるという。
台湾の政治家は、「今は型破りな手段を必要とする例外的な時期である」と主張している。
中国も、モバイル技術を統合することでコロナウイルスの流行を制御すること比較的成功している。
恐らく、最も厳格なアプローチを展開しているのはイスラエルだ。テロ対策で使用されるものと同様の手法を適用している。イスラエルの治安当局は、ウイルスの感染が疑われる人の携帯電話の追跡と監視を行うとみられる。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「民主主義国家として、市民の権利と国民の健康のバランスを維持しなければならない。これらのツールは、感染者の位置を特定し、ウイルスの拡散を阻止するのに非常に役立つ」と主張している。
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