SMICは、14nmチップの生産を開始し、FinFETを製造できる半導体メーカー/ファウンドリーの“仲間入り”を果たした。同社は間もなく、事業への投資を継続するため、70億米ドル超を得られる株式公開を行う予定である。だが、トランプ政権によって、SMICは最新の製造機器の一部を利用できなくなっている。そうした状況の中、同社はSoC(System on Chip)のトップメーカーが求めるような最先端のプロセス技術を長期的に提供し続けられるのだろうか?
Semiconductor Manufacturing International Corp.(SMIC)は、14nmチップの生産を開始し、FinFETを製造できる半導体メーカー/ファウンドリーの“仲間入り”を果たした。同社は間もなく、事業への投資を継続するため、70億米ドル超を得られる株式公開を行う予定である。だが、トランプ政権によって、SMICは最新の製造機器の一部を利用できなくなっている。そうした状況の中、同社はSoC(System on Chip)のトップメーカーが求めるような最先端のプロセス技術を長期的に提供し続けられるのだろうか?
SMICは中国の主要な半導体ファウンドリーである。同社は中国で最先端のプロセス技術を提供しており、中国政府が掲げる政策「Made in China 2025」に貢献するよう期待されている。SMICは、EUV(極端紫外線)リソグラフィを適用する半導体製造プロセスをけん引するTSMCとSamsung Electronics(Samsung Foundry)を追うことに本腰を入れている。だが2019年、SMICは既に購入していたEUVスキャナーを、輸出条件の影響で手に入れることができなかった。
米国の規制では、主要なファウンドリーに対して、Huaweiにチップを販売することを禁じている。そのため、Huaweiは現在、プロセッサを製造する他の手段を見つけることを余儀なくされている。
世界最大のファウンドリーであるTSMCの売上高は、Samsung Foundryのおよそ3倍である。そのSamsung Foundryの売上高は、第3位のGLOBALFOUNDRIESと第4位のUMC(United Microelectronics Corporation)の3倍に相当する。第5位のSMICは、GLOBALFOUNDRIESとUMCにかなりの差をつけられている。
特化した技術に重点を置くことを決めたGLOBALFOUNDRIESとUMCとは異なり、SMICは最先端ノードに取り組んでいるため、TSMCとSamsung Foundryという、より強い財務体制を持つ市場リーダーと競合することは、理論上は可能である。
高度なノードには何十億米ドルもの開発コストがかかる。また、利益を生み出すには(同じく何十億米ドルもかかる)300mmウエハー生産ラインが必要になる。近年、多くの半導体メーカーが最も高度な技術の追求をやめたのには、そうした背景がある。そのため、SMICの最先端の取り組みはいささか意外に見えるかもしれない。だが、それには理由がある。SMICには、地方自治体、国有企業、大手外資系企業とのジョイントベンチャーからのばく大な資金提供が伴う、独自のビジネスモデルがあるのだ。それにより、SMICは自社の設備投資額や研究開発費を大幅に減らすことができる。
AMDやGLOBALFOUNDRIES、Intelなどの半導体メーカーが、新たな工場を建設する(AMDの場合は既に新しい工場の建設を終えているので、「建設した」になるが)際、地方自治体や連邦政府から奨励金を受け取ることは珍しいことではない。半導体工場は、高賃金の雇用を生み出すなど、その地域に直接的にも間接的にも利益をもたらす存在だ。だが、多額のインセンティブや税額控除などをもってしても、何十億米ドルという投資が必要になるのである。
一方SMICは、異なる方法を採用している。中国の地方自治体はそれぞれ、「地域にもっと多くの技術メーカーを引き寄せて、ハイテク企業集団を生み出し、高賃金の仕事を創出したい」という野望を掲げている。SMICはこれを利用し、地方政府にインセンティブを求めるのではなく、協業関係を構築することによって、SMICの製造施設に共同投資してもらうモデルを採用しているのだ。
SMICは現在のところ、自社工場の所有権の大半を保持し続けているようだ(このような状況は、必ずしも常に可能なわけではない)。しかし、同社が創設された2000年当初は、基本的に地方自治体がSMICのために工場を建設し、それをSMICが運営していた。SMICは、地方当局と協業関係を構築することで、自社の資本要件を大幅に削減できるだけでなく、ライバル企業よりも、半導体関連の契約を締結する際に多くのメリットを提供することができる。
ただし、このモデルには注意すべき点がいくつかある。近代的な工場の建設費は、簡単に100億米ドルを超えてしまうため、その半額を進んで投資しようとは思わない地方自治体もある。そこでSMICは、各省政府にサポートを求める必要がある。例えば、同社は2020年5月に、上海で12nm/14nmプロセスを適用した量産を開始するためとして、中国政府の2種類の基金から計22億5000万米ドルを調達している。同社は、投資を行った結果、工場「SN1」を保有しているSMSCの過半数の株式を失ったが、工場の運営はそのまま継続する予定だという。
半導体業界では、進むべき道を共同で模索して研究に取り組むことは、ごく当たり前に行われているため、未来の材料やトランジスタ構造の共同開発を目指す研究提携が無数に存在している。このような共同資金調達により、次に実用化されるプロセス技術の土台が形成されるのだ。ただし、実現に至るまでには、ある程度の時間がかかる場合が多い。
例えば、IBMが率いる「Research Alliance」は2017年に、ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)のナノテク研究団地「Albany Nanotech Complex」と共同で、GLOBALFOUNDRIESとSamsung FoundryのシリコンナノシートGAAFETベースのプロセス技術の基礎を構築しただけでなく、シリコンナノシートGAAFETに依存した5nmプロセス製造技術を適用することで、その手法の実現可能性を示したデモも披露している。GLOBALFOUNDRIESは最終的に、最先端プロセス技術の開発を断念し、専門分野の技術にターゲットを絞った。一方Samsung Foundryは、2022〜2023年をメドに、3nm GAAをベースとした「MBC(Multi Bridge Channel)FET」を使用する予定だと発表している。こうした技術の基礎は、科学者たちによる共同開発チームがかなり昔に構築していたものだ。
SMICは、かなり幅広く研究開発事業を展開しており、近年では資本支出を増加させている。同社は、国際的な研究開発/イノベーションの拠点であるベルギーimecや、IMECAS(Institute of Microelectronics of the Chinese Academy of Sciences)とも協業しているという。さらに、HuaweiやQualcommなどの顧客企業の他、Brite SemiconductorやCEVAなどのパートナー企業と協業することにより、商用ノードやプラットフォームの実用化に向けた開発を進めている。これにより、設備投資を最適化して、さらに優れたサービスを提供することが可能になる。また、こうした協業体制を構築することで、HuaweiやQualcommなどの大手メーカーがSMICに対し、「中国国内で必要な半導体チップの製造を成功させてほしい」と期待するようになるのだ。
最先端プロセス技術の開発コストは、数十億米ドル規模に達する。SMICは、さまざまな方法を活用して設備投資の最適化に取り組んでいるが、コストが高騰しているため、さらに資金を追加する必要がある。そこで同社は、研究開発および規模拡張のための資金を、32億米ドルから75億米ドルに増やすべく、2020年中に上海証券取引所で新規株式上場(IPO)を行う予定だとしている。同社は調達予定の資金について、全体の40%を300mmプロセスのSN1工場に、20%を最先端ノードおよび旧世代ノード関連の研究開発に割り当て、残りは運転資金の補充に投じる予定だという。SMICの2019年の研究開発費が6億2900万米ドル程度だったということを考慮すると、もし今回の資金調達が全て計画通りに進めば、同社が研究開発予算として数億米ドルを追加することは、非常に重大な取り組みだといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.