今回発表した「Cortex-R82」は、こうしたコンピュテーショナルストレージなどに向けたリアルタイムプロセッサだ。
Cortex-R82は新しい「v8-R64」アーキテクチャに準拠し、Cortex-Rシリーズで初めて64ビットを採用。Cortex-R8の後継という位置付けとなるが、Coremarkなどの一般的なベンチマークスコアでは約20〜30%の性能向上しており、ベンチマークによっては最大2倍の性能向上を実現。より低いレイテンシーで機械学習などの最新のワークロードを実行できる。また、オプションでSIMD(Single Instruction Multiple Data)命令セット「Neon」搭載も可能で、さらなる高速処理にも対応する。メモリについても、最大1TバイトのDRAMにアクセス可能となっている。
オプションでMMU搭載を可能としたことも大きな特長だ。ストレージや通信などの大量のデータ処理が必要なアプリケーションにおいて、従来型のコントローラーはリアルタイムのデータ制御向けのみに使われていたが、Cortex-R82では、1つのクラスタ内でMMU搭載/非搭載のコアを混載することを実現。これによって高度なオペレーションシステムやCortex-Aで用いられている幅広いLinuxのエコシステム、クラウド側のエコシステムが導入可能となった。
また、最大8コアまで搭載可能であり、ソフトウェアの外部要求に基づきコントローラーで実行されるワークロードの種類を調整できる。Armは、「さまざまな市場と機能に対応するためストレージコントローラーが多様化する中、Cortex-R82アーキテクチャは、並外れた柔軟性をもたらすことで、コスト低減と市場投入期間の短縮化に貢献する」としている。
Armの日本法人アームの応用技術部ディレクター、中島理志氏は、「リアルタイム制御プロセッサの世界はどちらかというと閉じた世界だった。この一部をMMUを使ってLinux、オープンソースコミュニティーに開放することで、従来型のリアルタイム制御と新規のLinuxやクラウドソフトウェアに対応した新しいアプリケーションを混載可能になる。コンピテーショナルストレージだけでなく、特に日本の産業が得意とするリアルタイム制御やその作りこみといった分野において、何か面白いイノベーションが生まれるのではないかと期待している」と語っていた。
ライセンス提供は2021年初頭を予定。このIPを用いた最終半導体製品の出荷については、2021年後半〜2023年頃と予想しているという。Armによると、既にHDDおよびSSD用コントローラーの約85%がArmベースだといい、中島氏は、「この立場に慢心することなく顧客が求めるより信頼さ入れたテクノロジーを提供していく」と語った。
また、今後v8-R64アーキテクチャを採用した車載対応のプロセッサIPなども計画しているという。
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