ローム、東芝のように、ディスクリートを中心としながら幅広い製品群を手掛ける企業と、富士電機、三菱電機、日立パワーデバイス、新電元工業のように、パワーディスクリートにほぼ特化した企業がある。
このグループに属する企業としては、ロームが比較的積極的にM&Aを行って事業領域の拡大を目指している。かつては東芝もM&Aに積極的だった時期もあるが、メモリ事業を分社し、ASIC事業からの撤退を表明するなど、今では事業領域を絞り込む傾向が強い。この2社以外では、パワーディスクリート分野でそれなりに実績を挙げている企業もあるが、事業拡大に積極的な企業は残念ながら存在しない。業界首位を走るInfineon Technologiesとの差は広がる一方である。②のグループと同様、注力すべきアプリケーションを同じくできるアナログICメーカー、あるいは電子部品メーカーとの事業統合が検討されても良いのではないか、と筆者は考えている。
ソシオネクスト、メガチップスのように、ASICを中心としたファブレス企業と、セイコーエプソンのように、一事業部門としてファウンダリーに注力する企業がある。
このグループには、かつて多くの日系企業が属していたが、国内におけるASIC需要の減少と共に企業数も減少した。米国や中国のスマホメーカーやクラウドサービス企業の中には、自社の差別化のためにASIC事業に注力する企業もあるが、日本国内にはそのような潮流は見られない。ソシオネクストやメガチップスがいかにして海外需要、とりわけ中国市場での需要を掘り起こせるかがポイントだろう。
村田製作所、TDK、ミネベアミツミなど、国内外の半導体メーカーを買収して半導体事業に参入する企業がある。
このグループは、日本に多く存在する強い電子部品メーカーの特長と言える。日本の電子部品業界には、時価総額5兆円を超える日本電産、同4兆円超の村田製作所、同2兆円超の京セラ、同1.5兆円のTDK、同1兆円前後の日東電工、ミネベアミツミなど、優良企業が目白押しだ。そしてこれらの多くが半導体事業への参入をすでに実施、あるいは画策していることも事実である。世界市場における位置付けが凋落し続けている日系半導体メーカーとは対照的に、彼らは世界の電子部品業界をリードし、攻めるためのM&Aを繰り返しながら事業領域を拡大しているメーカーも存在する。一時期、日本電産がルネサスの買収に強い意欲を示していたこともあり、これがいつか再燃するのではないか、というウワサも残っている。
やみくもにM&Aをけしかけることが筆者の目的ではない。だが、日本には優れた半導体技術やノウハウがあるにも関わらず、それらが多数の企業に分散したまま埋もれている、という実態を問題視せずにはいられない。事実、世界の半導体市場は成長を続けているにも関わらず、日系企業の実績は下降の一途をたどっており、具体的な改善策が講じられることもなく放置されているのである。特に、これからやって来るIoT/5G/AI時代において、電子デバイス製品のニーズが多様化することは間違いなく、埋もれた技術やノウハウを活用するチャンスは無限にあるはずだ。冒頭に述べたように、日本の半導体業界のために、ポジティブな再編シナリオがあって然るべきだと筆者は確信している。本記事をご愛読下さった読者の方々とも、本件について議論する機会に恵まれれば幸いである。
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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