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Nexperia接収で得た教訓 半導体政策で欧州が直面するジレンマ政府はどこまで介入すべきか(1/3 ページ)

オランダ政府によるNexperia接収で、EU諸国では「半導体ビジネスにおいて政府がどこまで介入すべきか」という議論が巻き起こっている。

» 2025年12月16日 11時00分 公開
[Pat BransEE Times]

 オランダ政府によるNexperia接収(政府による一時的な経営権の掌握)は、戦略的に扱いが難しい外資系半導体企業に対する、国家による前例のない主張として幅広く解釈された。それにより「半導体アセットを守るため、各国政府はどこまで介入すべきなのか」という議論がEU全土に巻き起こった。欧州は、半導体エコシステムの優位性を維持するための投資を阻むことなく、その主権を守ることができるのだろうか。

Nick Houttekier氏 出所:Royal Military Academy Nick Houttekier氏 出所:Royal Military Academy

 CELIS Instituteでシニアプログラムアソシエイトを勤めるFloor Doppen氏と、ベルギーのRoyal Military Academyの研究者であるNick Houttekier氏は、いずれもヨーロッパの戦略的セーフガード(緊急輸入制限措置)の進化を密接に追ってきた専門家である。今回、両氏との独占インタビューの中で、Nexperiaを巡る出来事は突発的なショックではなく、欧州大陸全土での変化における明らかなマイルストーンであることが示された。また両氏は、投資スクリーニング手段、産業政策、地政学、そして国家と企業の関係が新しく予測不可能な形で相互に作用しているという、現在の様相についても解説した。

 Houttekier氏は、Nexperiaのケースは一度限りの反応ではなく、明らかに「より幅広い変化の一部」とみているという。同氏によると、欧州は過去数年間で地理経済の転換期に入り込んでおり、貿易ならびに投資政策と国家安全上の懸念と地政学的競争が絡み合う世界の只中にあるという。

 Houttekier氏によると、そうした変化は2020年前後に始まり、新型コロナウイルスのパンデミックと米国/中国間の競争が激化して以降、加速の一途をたどっている。

 Houttekier氏は「現在、国家と企業の関係が変化し、より密接になってきているが、その背景には明確な地理経済目標を持つ手段が増えていることがある。包括的に見れば、そうした手段では産業政策と言う形でインセンティブが提供されるか、企業やその他の民間組織の活動の自由度が制限されるかのいずれかになる」と述べた。

 Houttekier氏は、そうした進化を具体化したのがNexperiaのケースだと指摘する。米国は既に2024年12月に同社の親会社であるWingtechをエンティティリスト(Entity List)に入れていた。その後2025年9月29日には、米国の産業安全保障局(Bureau of Industry and Security)が輸出管理規制の対象を、同リストに含まれた1つ以上の組織が少なくとも50%(株式を)保有する企業にまで拡張するルールを発令した。その結果、Nexperiaの経営に下振れリスクがもたらされたわけだ。この外部からのショックにより、オランダ政府はNexperiaの「直接的な経営管理」を掌握せざるを得なくなり、欧州が今やどれだけ深く米国/中国間の争いに組み込まれているかが明白になった。

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