黒田氏 それでは、日本にとっての課題はなにか。DXで新しい成長を導くのがわれわれの目指す『Society5.0』であり、データ駆動型社会のイメージですが、そのシナリオに半導体は必須です。データ駆動型社会のデータ駆動サービスとはコンピューティングのことであり、そこで勝てなければDXで勝つことはできません。
ただ、日本はこの10〜20年、部品材料としての半導体事業で後退を余儀なくされ、経営者はずいぶんと苦労し、トラウマもできました。経営者のマインドとしては、「ハードウェアへの投資をやめ、ソフトウェアへかじを切った。これからはDXだ。ハードウェアについては外から買ってくる」という答えが多いですが、本音では皆さん、ギリギリのところで悩んでいるようです。
その悩みを端的に表しているのが、Alan Kay氏の「ソフトウェアを本気で考える人たちは、自分でハードウェアを作ることになる」という言葉です。この言葉は、非常に本質を突いています。分かりやすい例がGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)でしょう。
GAFAはソフトの会社と思っている方が大部分かと思いますが、現在、最もハードに投資しているのは彼らです。彼らが望むコンピューティングのために世界中の設計者を集め、何百億という投資をしてTSMCやSamsung Electronicsといったメガファウンドリーで専用半導体を作っています。
黒田氏 かつて大規模なシステムの接続問題の解としてフォンノイマンアーキテクチャと半導体集積回路が発明され、その後、半導体産業界はプロセッサ、メモリを制したものが勝つという世界になりました。これはより安く良い汎用部品をいかに用意するかというコスパ競争の世界であり、リスクのある投資をしながら資本で勝たなければなりません。ここで日本は韓国に負け、いまは中国にも負けようとしています。
また、このプロセッサとメモリに分けたことが逆に『フォンノイマンボトルネック』といわれる課題となりました。プロセッサとメモリ間を大量のデータが行き来することからエネルギー消費が激しくなるため、その性能のせいぜい10分の1程度しか引き出すことができなくなったのです。
そんな時に登場したのがAIです。AI処理に用いられる「神経回路網」は、どこもプロセッサとメモリに分かれていない、「非ノイマン型アーキテクチャ」で、エネルギー効率をより良くすることができることから、専用チップが世界中で開発されています。同時に、メモリとプロセッサとの距離を減らしてエネルギー効率を少しでも向上させようと、3D集積化する技術への需要も高まっています。
こうして、これまでのようにプロセッサやメモリをたくさん売った者が勝つ、というゲームが崩れようとしているのです。
また、特にAI的にみると設計に2年もかけていたら大昔のプロジェクトとなってしまう。そのため開発効率の向上も重要です。これまでのような単純な資本競争の中のコスパから、今度は知恵の競争となり、さらに誰が先にチップにしたか、というタイムパフォーマンスが重要となってきました。これからはいかに開発効率が上がり、エネルギー効率が上がるかが指標となり、それを専用チップの上でやるというのが非常に重要となります。
これは、「日本が戦う新しい舞台になった」といえます。資本の力でプロセッサやメモリ市場で勝てるかといえば、もはやNVIDIAやIntel、AMDには対抗できないし、SamsungやMicron Technologyに対抗するような工場をこれから作るのは難しいでしょう。しかし、AIの知恵を出し合うのはいくらでもやりようがあるし、3D実装については日本が強い。そして、チップ製造についてはメガファウンドリーとうまく連携すればいいのです。
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