一口に車載半導体と言っても、クルマにはさまざまな半導体が搭載されている。2019年と2020年について、全てを書き出してみたら、その種類は少なくとも15種類あることが分かった(図4)。出荷額が大きい順に、アナログ、ロジック、MCU(いわゆるマイコン)となっている。
これら15種類について、出荷額や出荷個数の挙動を全て調べてみた。その結果、図3に示したクルマの減産と、ほぼ同じ挙動をしている車載半導体を特定することができた。それは、アナログ、ロジック、MCU(Micro Controller Unit、マイコン)、DSP(Digital Signal Processor)の4種類である(図5)。
図5では、4種類の半導体の挙動を分かりやすくするために、桁違いに出荷個数が多いアナログを右の軸で書き、桁違いに少ないDSPの出荷個数を20倍にして同一のグラフに書いた。
このような小細工はしたが、4種類の半導体の出荷個数が全て、4〜5月に大きく落ち込んでいる。これ以外の11種類の半導体には、このような傾向がみられなかった。従って、この4種類の半導体が、ジャスト・イン・タイムの影響を大きく受けていると判断した。
ところが、ここで疑問が湧いてくる。クルマの生産が元に戻った9〜10月に、ジャスト・イン・タイムによってキャンセルされた4種類の車載半導体の出荷個数は、全てコロナ前の水準に戻っているのである。
にもかかわらず、1月25日付の日経新聞が、クルマ産業を基幹産業としている日米独の各国政府が台湾政府に車載半導体の増産を要請していることを報じている。この記事には、「製造業の部材不足を理由に、各国が特定の国や地域に対し、増産などの協力を求めるのは異例」との記載があるが、確かに今までに見たことがない異常事態である。
しかし腑に落ちないのは、繰り返して言うが、ジャスト・イン・タイムによってキャンセルされた4種類の半導体の出荷個数は2020年秋にコロナ前の水準に戻っており、2021年1月末というのは、InfineonとNXPが寒波で停電する前であり、ルネサス那珂工場が火災で止まる前のことである。
それなのに、なぜ、日米独の政府が台湾政府に車載半導体の増産を要請する異常事態になってしまったのか?
以下では、Infineon、NXP、ルネサスなど、全ての車載半導体メーカーが40nm以降を生産委託しているTSMCについて分析を行うことにする(図6)。台湾には、UMCもあるが、どうも各国政府が台湾政府を通じて増産要請をする矛先はTSMCに向かっていると思わざるを得ないからである。
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