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MagnaのVeoneer買収でADAS技術の勢力図は変わるのか「完全自動運転」に注目しがちだが

カナダの自動車部品メーカーであるMagna International(以下、Magna)が2021年7月、Veoneerを買収することで両社が最終的な合意に至ったと発表した。これにより、人間をより安全なドライバーにするための技術を活用していくという傾向が、さらに顕著に明示されたといえる。今回の買収の背景にあるとみられる根拠について、取り上げていきたい。

» 2021年08月16日 15時30分 公開
[Colin BarndenEE Times]

 カナダの自動車部品メーカーであるMagna International(以下、Magna)が2021年7月、Veoneerを買収することで両社が最終的な合意に至ったと発表した。これにより、人間をより安全なドライバーにするための技術を活用していくという傾向が、さらに顕著に明示されたといえる。今回の買収の背景にあるとみられる論理的根拠について、以下に取り上げていきたい。

 買収の発表があった週には他にも、自動車技術に関する重要なニュースが発表されている。まずはFordとArgo AI、Lyftが、ロボットタクシーの商業展開に向けて協業することを発表した。Argo AIのCEO(最高経営責任者)を務めるBryan Salesky氏の見解については、こちらを参照いただきたい。

 同氏の全ての発言の中で、特に目立っていた数字が2つある。1つ目の「124億米ドル」は、Argo AIの新たな市場価値だ。そしてもう1つの「1000台」は、今回の協業により、今後5年間で導入される見込みのロボットタクシーの合計台数である。

 これらの数字から、人間を置き換えるドライバー技術の実現に向けた道のりが、まだやっと始まったばかりであるということや、大半の予測よりもはるかに長い時間がかかるであろうことが露呈する形となった。さらに投資家たちが、この先に待ち受けるリスクを快く思っていないということも明示された。

 「自動運転車開発は大詰めを迎え、Teslaは間もなく自動運転の問題を解決するだろう。人間をより安全なドライバーにするための技術は、廃れつつある」というストーリーに対し、懐疑的な見方をする人々から疑問の声が上がっている。Magnaが、自動運転車の開発を専業とするVeoneerを買収したことによって、その証拠が目の前に提示されたのだ。

 読者の皆さんは、筆者が自動運転技術に対して疑念を抱いているということに気付くのではないだろうか。筆者の懐疑的な見方は、今回のMagnaのVeoneer買収によってさらに強まっている。

 今回の買収の背景には明らかに、Magnaが、Veoneerの「Collaborative Driving(協調運転)」技術を手に入れたいと考えていたことを示す根拠がある。誰もが自動運転に注目する中、VeoneerはQualcommとの協業によって、ひそかに技術スタックを構築していたのだ。

 その目的は、人間とマシンの連携によって、人間をより安全性の高いドライバーにすることである。Qualcommは2021年1月に、その詳細を明らかにしている。

 Magnaは、車載グレードでの有効性が実証された革新的な技術を、商業向けの準備が整った状態で入手しようとしている。また、Qualcommとの間で協業体制を構築するとともに、自動車メーカーとの間で強固な関係を築き、実証された補完的な車載エレクトロニクス事業を確立しようとしているのだ。

 この全てが、Argo AIの現在の市場価値の約3分の1に収まるという。

 ここで筆者は、「なぜ誰も、Veoneerが手掛けていた開発に注目しなかったのだろうか」という疑問を抱いた。

 MagnaもVeoneerも、Seeing Machinesが提供するソフトウェアを使用したDMS(ドライバーモニタリングシステム)開発に取り組んでいる。これにより、Aptiv/Smart Eye/Affectiva勢とMagna/Veoneer/Seeing Machines勢のヒューマンマシンインタラクション分野における競争が実現し、今後、ドライバーモニタリング技術の重要性が誰の目にも明らかになるにつれ、興味深いものとなっていくだろう。

もう1つの買収理由は”Apple”

 MagnaがVeoneerを買収する、もう1つの明らかな理由がある。それはAppleだ。

 筆者は2021年1月、「Why Apple 'iCar' Won't Be Self-Driving」という記事で、AppleがVeoneerの協調運転技術を利用するのではないかと推測した。また、Appleは「iCar」の製造をMagnaに委託するのではないかとも推測していた。

 Fiskerやソニーなどのメーカーが、Magnaを製造委託先として利用することで、独自の製造設備を開発することなく、市場に参入できるのではないかとも考えた。

 MagnaがVeoneerを買収したことで、Appleのパズルのピースが全てそろい始めた、といえるだろう。

 テクノロジーが公道の安全性を向上させるには、人間がより安全に運転できるようになることと、車両の自律性が高まることの両方が必要だ。Ford、Argo AI、Lyftの提携がメディアで一斉に報道されたことからも分かるように、“人間に代わって運転する技術”への注目度は高い。

 対照的に、自動緊急ブレーキ、車線維持支援、ビジョンベースのドライバーモニタリングといった技術の役割は、これらのシステムが検証され、現在の市場での展開に適しているにもかかわらず、メディアや投資家の注目を集めることは非常に少ない。

 この2つの開発トラックをうまく使い分けている企業が3社ある。GM(General Motors)はセミ自動運転機能の「Super Cruise」に、FordはArgo AIとADAS(先進運転支援システム)の「BlueCruise」に投資している。MagnaはWaymoに投資し、今回Veoneerを買収した。

 残る問題は、主要なテクノロジー投資家たちが目を覚まし、自動運転関連の投資に何十億米ドルも費やすのをやめるのに、どれくらいの時間がかかるかということだ。もう1つは、投資家らがいつMagnaのような既存のティア1サプライヤーや、Seeing Machines、Smart Eyeのような新しい技術サプライヤーに投資を始めるのかということだ。

 最も可能性の高い答えは? 「あまり長くはかからない」だろう。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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