米国のスタートアップ企業であるBlaize(旧ThinCI)は、7100万米ドルのシリーズD資金調達ラウンドを終了した。同ラウンドは、今回新に参加した投資家のFranklin Templeton氏と以前から同社に投資していたシンガポールの政府系投資会社Temasekが主導し、デンソーなどの既存および新規投資家や企業が参加した。
米国のスタートアップ企業であるBlaize(旧ThinCI)は、7100万米ドルのシリーズD資金調達ラウンドを終了した。同ラウンドは、今回新に参加した投資家のFranklin Templeton氏と以前から同社に投資していたシンガポールの政府系投資会社Temasekが主導し、デンソーなどの既存および新規投資家や企業が参加した。同ラウンドによって、Blaizeの資金総額は約1億5500万米ドルになった。
Blaizeは、エッジアプリケーション向けAI(人工知能)アクセラレーターチップを構築する最も成熟したスタートアップの1つである。同社は2019年に「グラフストリーミングプロセッサ(GSP)」アーキテクチャを搭載するテストチップをテープアウトし、2020年に同社のチップを搭載するSoM(System on Module)とPCIeカードを発売した。Blaizeのチップは、7Wのパワーエンベロープで16TOPSの推論性能を提供し、主に、乗員のモニタリングやADAS(先進運転支援システム)、インフォテインメントなどの自動車の車内アプリケーションをターゲットにしている。
BlaizeのCEO(最高経営責任者)を務めるDinakar Munagala氏は、米国EE Timesに対して、「自動車は今、大きな変革を遂げようとしている。電話がスマートフォンになったように、自動車はスマートカーになろうとしている。Teslaは、それまでの車載半導体の概念を崩壊させた。同社は、(1台または2台のコンピュータで車を完全に制御する)セントラルコンピューティングを備えた自動車を開発し、運転機能のバージョンアップ向けにアップグレードパッケージを販売する戦略を打ち立てて、市場を完全に混乱させた」と語った。
Munagala氏は、「長期的に見ると自動車業界はセントラルコンピューティングに移行すると予想されるが、当面は小型化されたAIアクセラレーターが車両専用アプリケーションに有用だろう」と述べている。
同社の主要投資者の1つで日本のティア1メーカーであるデンソーも、同社の顧客だ。デンソーの子会社であるエヌエスアイテクス(NSITEXE)は、日本の販売代理店として、デンソーや自動車以外の顧客にBlaizeのサービスを提供している。Blaizeによると、NSITEXEは当初、BlaizeのIP(Intellectual Property)をライセンス供与していたが、現在はBlaizeのモジュールおよびカードの販売を担当しているという(Munagala氏によると、IPのライセンス供与はBlaizeのビジネスモデルではなくなったという)
Blaizeの戦略的事業開発担当バイスプレジデントを務めるRichard Terrill氏は、「NSITEXEとその親会社であるデンソーは、車両とインフラについて総合的に検討している」と述べている。「両社はプログラマビリティの実現に注力している。ワイヤレスアップデートしたソフトウェアを介し、路上に配備した車両への機能追加を検討している。完全なプログラマビリティの実現によって車両が展開された後でも新しい機能を搭載することができれば、NSITEXEとデンソーは、自動車メーカーに明確な差別化を提供することができるため、両社はこの計画に大きな関心を寄せている」(同氏)
Blaizeは、同社のAIチップとソフトウェアを、このプログラム可能なソリューションの一部として売り出したいと考えている。
Munagala氏によると、同社は長年にわたり、自社製品の自動車機能安全規格ASIL-D認証取得に取り組んできたという。
同氏は、「いったん作られた製品に対して、さかのぼってASIL-Dに対応した機能を追加することはできない。同機能は、最初から搭載する必要がある。当社のロードマップは今後も、ASIL-D機能を提供していく」と述べている。
Blaizeのモジュールは自動車分野以外では、スマートリテールやスマートホーム、スマートシティーアプリケーション向けに販売されている。Munagala氏は、家庭用スマートセキュリティシステムを構築する韓国の顧客や、数千台のバスや列車への潜在用途を持つ「北米最大級の公共交通機関」との契約についても言及している。
同社は、日本のスマートリテール業界とも取引しており、買い物客がマスクを着用しているかどうかの判断や、顧客の感情分析、万引きの検知、無人レジによる自動精算などにエッジAIを活用することに関心を持った潜在顧客が期待される。Terrill氏は、「クラウド処理は遅延が頻発し、コストが高く、精度が低いため、エッジAIが求められている。このシステムはまだ試験段階だが、パンデミックによって特に無人レジの必要性が明確になった」と述べている。
Terrill氏は、「当社は、POSシステムで万引きを検知する方法を提案した。このシステムはそれほど難しい仕組みではなかったため、使わない計算リソースがたくさん余った。そこで、在庫を移動させる必要があるかどうかを判断する棚分析や、顧客の感情を分析する機能を同じシステムに追加することができた」と説明している。
Blaizeは電子機器メーカーとの取引もあり、これらの企業は家電やその他のシステムにAIを追加する方法を検討しているという。Munagala氏は、「製造中の顧客システムに関しては公表できないが、エッジAI市場は間違いなく準備ができている」と述べている。
Munagala氏は、「市場はすでに立ち上がっており、同市場を主導する自動車など一部の分野は、長期的な展望を持って、7年後にも通用する技術の構築を見据えている。顧客と話す中で、プライバシーや低遅延、通信の輻輳(ふくそう)が起こらないことなど、さまざまな理由からエッジAIが求められていると感じている。エッジAIのうねりが押し寄せている」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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