東北大学は、リチウムイオン電池(LIB)でコバルトフリーの正極を用い、安定な高電圧作動に成功した。コバルトは将来的に需給ひっ迫が予想される中、開発した技術を用いることで、資源的制約のリスクを回避できるとみている。
東北大学多元物質科学研究所の小林弘明助教と本間格教授らは2021年9月、リチウムイオン電池(LIB)でコバルトフリーの正極を用い、安定な高電圧作動に成功したと発表した。コバルトは将来的に需給ひっ迫が予想される中、開発した技術を用いることで、資源的制約のリスクを回避できるとみている。
LIBでは、正極材料としてコバルトが用いられている。ところが、コバルトの鉱石や精錬した地金は、生産地が限定されている。このため、EV(電気自動車)向けなどでLIBの需要が爆発的に拡大すると、資源の枯渇など安定供給という点では課題もあった。
これらの課題を解決する1つの方法として、スピネル構造のニッケルマンガン酸化物「LiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)」を採用することが検討されている。ところが、LNMOは動作電圧が4.7Vと高く、電解液の分解などによって充放電サイクル特性が劣化するという問題があった。
研究チームは今回、耐電圧性の高い固体電解質で高電位正極の表面をコーティングし、劣化するのを抑える技術を開発した。LNMOをコーティングする材料として新たに開発したのが「Li3AlF6(LAF)」である。開発したLAFは、LNMOに対し十分なリチウムイオン伝導性や耐電圧性、化学的安定性を有することが量子計算によって示されているという。
実験では、LNMO表面にLAFを薄膜コーティングしたコアシェル構造型正極材料を作製し、その特性を評価した。この結果、5V級の高電位でも100回以上の安定した充放電サイクル特性を示すことが分かった。
今回開発したフッ化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性と耐電圧性を兼ね備えている。このため、「5V級リチウムイオン電池」や「コバルトフリー正極材料」「全固体電池」などに応用できる。また、フッ化物固体電解質の薄膜コーティングは、さまざまな正極に適用することが可能だという。
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