東北大学は、カルシウムイオン電池用の電解質を新たに開発、これを有機溶媒に溶解させたカルシウム電解液を作製することに成功した。この電解液を用いて試作したカルシウムイオン電池が、室温で安定動作することを確認した。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の木須一彰助教と折茂慎一所長、同大学金属材料研究所の金相侖助教らによる研究グループは2021年4月、カルシウムイオン電池用の電解質を新たに開発、これを有機溶媒に溶解させたカルシウム電解液を作製することに成功したと発表した。この電解液を用いて試作したカルシウムイオン電池が室温で安定動作することを確認した。
カルシウムイオン電池は、カルシウム金属を負極に用いた蓄電デバイスである。この電極は、酸化還元電位が低く、体積容量が高いことから、注目されている。ここで課題となっていたのが電解質の特性で、高い伝導率と高い電気化学的安定性が求められる。これを実現するには、弱配位性アニオンの適用や、フッ素を含まない電解質が望ましいという。
研究グループは今回、フッ素を含まない弱配位性アニオンの水素クラスター[CB11H12]-を用いたカルシウム電解質Ca[CB11H12]2を新たに合成し、固体電解質と液体電解液について、それぞれの可能性を検討した。
具体的には、イオン交換法や熱処理の最適化によって合成したCa[CB11H12]2電解質の特性を評価し、150℃で0.2mS cm-1という高い伝導率を得ることができた。これまで報告されているCa[B12H12]などに比べると、より低温でより高い伝導率になることが分かった。
さらに、ジメトキシエタン(DME)やテトラヒドロフラン(THF)といった有機溶媒にCa[CB11H12]2を溶解させた複数の電解液を作製し、カルシウム電解液としての評価も行った。この結果、単体のDME溶媒やTHF溶媒にはほとんど溶解しなかった。一方、MDEとTHFの有機溶媒2種類を混合すると、Ca[CB11H12]2の溶解度が200倍も向上することが分かった。
しかも、DME/THF混合溶媒を用いたカルシウム電解液は、MDEやTHFの単体溶媒を用いたカルシウム電解液に比べ、伝導率が約100倍も高くなった。さらに、4V以上の高電位でも、高い酸化安定性があることを確認したという。
これらの結果より、Ca[CB11H12]2 in DME/THFは、「高いイオン伝導率」を示し、負極や正極に対する「高い電気化学安定性」を備え、電池の寿命向上につながる「フッ素フリー」の電池材料であることが分かった。
研究グループは、研究成果をベースに、カルシウム金属負極と硫黄正極を用いたカルシウム金属−硫黄蓄電池を作製して充放電特性を調べた。そして、電解液にCa[CB11H12]2 in DME/THFを用いたカルシウム金属−硫黄蓄電池が、室温で安定に動作することを実証した。
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