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TSMCの日本工場設立、利益を危険にさらす可能性も24年5月の生産開始を予定(1/2 ページ)

TSMCは2021年10月、日本に初の半導体工場を建設する予定であると発表した。これは、世界最大規模の半導体ファウンドリーである同社が、台湾以外で生産能力を拡大していく上で、コスト増大の問題に直面するであろうことを示す兆候の1つだといえる。

» 2021年10月22日 14時30分 公開
[Alan PattersonEE Times]

 TSMCは2021年10月14日(現地時間)、日本に初の半導体工場を建設する予定であると発表した。これは、世界最大規模の半導体ファウンドリーである同社が、台湾以外で生産能力を拡大していく上で、コスト増大の問題に直面するであろうことを示す兆候の1つだといえる。

出所:TSMC

 TSMCの日本での工場建設計画は、2021年末までに理事会の承認を得る必要があるという。

 欧米各国は現在、半導体不足のために国内の自動車メーカーが製造ラインを稼働させることができないという状況が続いているため、半導体の安定供給を実現する必要性に迫られている。各国政府は、韓国のSamsung Electronics(以下、Samsung)や台湾のTSMCといったアジアの大手半導体メーカーやIntelなどから、製造投資を得るための方法を模索しているところだ。

コスト増大の問題

 米国の投資会社Wedbush Securitiesでシニアバイスプレジデントを務めるMatt Bryson氏は、「SamsungやTSMCが、高度に統合された国内のエコシステムから、インフラが完璧にサポートされているとはいえない地域へと製造拠点を移行していくと、必然的にコストは上昇する」と指摘する。

 同氏は、米国EE Timesとのメールのやりとりの中で、「海外工場は、マージンベースでは、ほぼ確実に既存事業よりも利益が低下することになるだろう。例えば今回の場合、日本側が工場建設関連費用の半分を負担するとしても、まだ減価償却費が残る」と述べている。

 また同氏は、「新しい日本の工場は、減価償却が完了した旧世代の28nmプロセス事業と競合することになるため、TSMCにとっては、さらなるコスト負担が生じる可能性がある。TSMCは、台湾国内と同様の有利な価格決定力を得られるのだろうか」と指摘する。

 同社のCEO(最高経営責任者)を務めるC.C. Wei氏は2021年10月、投資家たちに向けて、「TSMCの新工場は、日本政府から助成金を受ける予定だ。このプロジェクトは、当社の顧客企業と日本政府の両方から、強力なサポートを確実に得ることができる」と述べている。ただし同氏は、日本政府からどのようなサポートを得られるのか、具体的な詳細については明かさなかった。

 新工場は、28nmおよび22nmプロセスノードを適用してウエハーを製造するとみられ、2024年5月の生産開始を予定しているという。今回の日本における投資計画は、あまりに早く実現したため、TSMCが2021年初めに、「生産能力の拡大実現に向け、今後3年間で1000億米ドルを投じる予定だ」としていた設備投資の中に、今回の日本の工場は含まれていないという。

地政学的争いで加速する投資

 また、TSMCは現在、米国アリゾナ州に新しい半導体工場を建設しているが、ここでもコスト構造が台湾国内より高くなるとみられる。TSMCは、製造能力の大半を台湾国内に置いているが、中国では12インチウエハーのギガファブ(巨大工場)や旧型の8インチウエハー工場を稼働させている他、米国でも旧型8インチウエハー工場で製造を行っている。

 TSMCは2020年初めに、アリゾナ州政府と米国政府から補助金を受け、5nmプロセスノード適用の半導体チップを製造するための工場をアリゾナ州に建設すると発表した。TSMCと米国との間でこの合意に至った背景には、米国と中国が、5G(第5世代移動通信)やAI(人工知能)などの新しい技術分野での優位性確立を巡り、地政学的な争いを繰り広げる中で、半導体業界がその板挟みになっていたということがある。5GとAIはいずれも、TSMCの成長をけん引する重要な要素だ。

 TSMCのチェアマンであるMark Liu氏は、最近行われたTime誌のインタビューの中で、「米国内の製造コストは、当社の予測をはるかに上回っている」と述べている。このような高コストにもかかわらず、より多くの政府が今後も、TSMCとの間で同様の契約を締結する可能性がある。

 Wei氏は、2021年10月に開催されたアナリストミーティングにおいて、「われわれとしては、他地域での工場建設の可能性を排除するつもりはない。その中には欧州も含まれる」と述べた。

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