――Celenoの買収が完了しました。シナジーをあらためて教えてください。Dialogもワイヤレス技術を持っていますが、重複はないのでしょうか。
Chittipeddi氏 DialogとCelenoの技術は補完関係にある。Dialogのワイヤレス技術は2.4GHz帯対応で、クライアント側にフォーカスしている。一方のCelenoは、Wi-Fi 6対応やAP(アクセスポイント)で充実したポートフォリオを所有しており、そこがDialogとの大きな違いだ。さらにCelenoは、Wi-FiとBLE(Bluetooth Low Energy)を統合したソリューションも持っている。両社を統合することでルネサスは、2.4GHzからBluetooth 5.2、Wi-Fi 6/6Eまで全てのソリューションをそろえることができるようになった。
特に注目したいのが、Celenoの「Denali」というチップソリューションだ。これはWi-FiとBLEにドップラーレーダーを組み合わせた製品で、Wi-FiのAPなどに搭載することで幅広く応用できる。例えば、入室するとエアコンのスイッチが入り、部屋に誰もいないとスイッチが切れるといった具合だ。高い競争力を持つCelenoのこうした技術は、ルネサスに価値をもたらしてくれる。
――先ほど、MPUの開発を進めるというお話がありましたが、産業オートメーションやモーター制御などのアプリケーションでは、MPUの売上高比率は、MCUに比べて随分低いようです。MPUの売上高比率を上げていく戦略はありますか。
Chittipeddi氏 MPUとしてはArmベースのハイエンドMPU「RZファミリ」を持っている。ルネサスはもともとASICに強みを持っているが、われわれはこの3年間で汎用品へとシフトしており、アナログ領域やユーザー体験での差異化を図る方針をとっている。顧客にとって、より使いやすいソリューションを提供するためだ。それが、MCUの売上高比率がMPUよりも高い主な要因になっている。
MCUとMPUでは求められる処理能力が異なる(MPUの方が高い)ため、高付加価値を提供できる市場に狙いを定めて成長を加速していく。ビジョンAI、監視ソリューション、高精度モーター制御などだ。さらに、ロボティクスやドローン、3Dプリンタなど、これまでアタックしたことがなかった市場に攻勢をかける。これらの市場ではMPUが“適した選択”になるからだ。これらのアプリケーションに向けて新製品とソフトウェアエコシステムの開発を進める。今後数年のうちにシェアが伸び始めると見込んでいる。
――ルネサスのMCUは、モーター制御市場などで既に高いシェアを獲得していますが、さらに伸ばすためには何が必要になりますか。
Chittipeddi氏 独自コア、Armコア、RISC-Vベースの3つのカテゴリーで製品群をそろえているので、それぞれで製品開発を進めていく。同時に、ユーザー体験の向上とソフトウェアの充実化にも力を入れる。ユーザー体験は極めて重要になっており、MCUのさらなるシェア拡大には欠かせない要素だ。使いやすく、入手して即座に立ち上げられる開発キットやツールチェーンの開発を強化する。
セキュリティの強化とTinyML(Machine Learning)への対応も鍵になる*)。エンドポイントAIを実現しやすい製品をそろえていくことが、MCUのさまざまなアプリケーション分野において次の成長を促すことになる。
*)例えばルネサスのモーター制御用マイコン「RA6T1」は、TinyML用途向けの「Google TensorFlow Lite for Microcontrollers」フレームワークに対応している。これにより、コスト効率の高いセンサーレスの予知保全システムを実現できるとする。
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