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続報・3MのPFAS生産停止、今は「嵐の前の静けさ」なのか湯之上隆のナノフォーカス(50)(4/5 ページ)

» 2022年05月18日 11時30分 公開

完成品がつくれない

 ドライエッチング装置用の冷媒の半分が消滅してしまった。そして、当分の間、それが補完されることは無いだろう。これに対して3Mは、Samsung、SK hynix、TSMC、Intelのサポートを約束した模様であるが、それ以外の半導体メーカー(特に日本メーカー)で、冷媒の在庫が底をついたところから、半導体工場の稼働が止まり始めることになる。

 すると何が起きるだろうか?

 思い出してほしい。2021年になった途端に、半導体不足で日米欧の各国のクルマメーカーが、クルマの減産に追い込まれたことを。このとき、主として足りなかったのは、2次下請けであるInfineon Technologies、NXP Semiconductors、ルネサス エレクトロニクスなどの車載半導体メーカーがTSMCに生産委託していた28nmのロジック半導体やMCU(Micro Controller Unit、通称マイコン)であった。つまり、約3万点の部品から構成されるクルマは、半導体が一つ欠けるだけで、完成車をつくることができなくなるのである。

 現在、クルマは少なくとも15種類の半導体を必要としている(図7)。ここで、この3年間の出荷額動向で顕著なのは、アナログ半導体が飛躍的に拡大していることである。2019年と2020年に150億米ドル弱だったアナログ半導体は、2021年に1.6倍の約240億米ドルまで市場が拡大している。

図7:クルマに使われる半導体(2019〜2021年)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 実は、2021年の初旬は、前述したように28nmのロジックやマイコンが不足していたが、2021年の後半にその不足は解消され、今度はパワーを含むアナログ半導体が不足してきたのである。それが2021年に(パワーを含む)アナログ半導体が急成長したことに現れている。

 この原因は、クルマの自動運転化とEV化(電動化)が進んでいることにある。自動運転車には多数のセンサーが搭載されるため、センサーの信号を処理するためのアナログ半導体が多数必要になる。加えて、EV化の普及により、パワー半導体需要が急拡大している。

 そして、クルマの自動運転化とEV化は今後もっと加速度的に普及していく。すると、パワーを含むアナログ半導体需要は、今後さらに拡大することになる。そのパワー半導体やアナログ半導体を生産している工場が、冷媒が底をついて止まってしまったら、どうなるか?

 パワーやアナログ半導体を生産している半導体メーカーは、8インチ工場が多い。そのような半導体メーカーは、Samsung、SK hynix、TSMC、Intelのようなビッグカンパニーではない。従って、ドライエッチング用の冷媒の調達合戦に負けてしまう企業もあるかもしれない。そうなると、レガシーなパワーやアナログ半導体が足りなくて、自動運転車やEVが生産できなくなるということが起きる。

Appleの「iPhone」もつくれなくなる

 そして、このような事態は、クルマだけに限らない。図8は、Communication用途の半導体の出荷額を示している。この分野には、米Appleの「iPhone」をはじめとするスマートフォンや5G(第5世代移動通信)通信基地局などが含まれる。

図8:Communicationに使われる半導体(2019〜2021年)[クリックで拡大] 出所:WSTSのデータを基に筆者作成

 新型iPhoneには、TSMCの最先端プロセスで生産したApplication Processor(AP)が必要である。しかし、最先端のAPだけあればiPhoneができるわけではない。図8に示したように、さまざまな種類の半導体が必要であるし、その半導体のテクノロジー・ノードは、最先端からレガシーまで幅広い。

 TSMC以外の中小規模の半導体メーカーが生産するレガシーなチップ1個足りなくても、完成品のiPhoneはつくれないのである。同様に、PCも、高性能サーバも、あらゆる電機製品も、たった1個の半導体が足りないだけで、完成品がつくれなくなる。

 このように、ドライエッチング装置用の冷媒が半分になったということは、クルマを含む全ての電機製品がつくれないという事態を招く。

 そして、問題はこれだけにとどまらない。

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