ある商社の知り合いからの情報によると、非公式ながら、3Mは、大口顧客のSamsung Electronics、SK hynix、TSMC、Intelに対して、サポートを約束した模様である。そのサポートとは、恐らく、生産停止となったフロリナートの代わりに、米国で生産しているノベックを供給するということであろう。
しかし、フロリナートとノベックは、種々の物性値が異なっている。例えば、汎用的に使われている型番FC-3283のフロリナートと、それによく似たノベック(型番7500)を比較すると、微妙に物性値が異なる(図3)。このように、物性値が異なる冷媒を混ぜ合わせた場合、静電チャックを所望の温度に制御することが極めて難しいという。つまり、フロリナートFC-3283とノベック7500は、互換性が良いとは言えないようである。
そのため、3Mからノベックの調達を受けた、ある半導体メーカーは、ドライエッチング装置メーカーに、フロリナートにノベックを混合した時の温度調節の試験を依頼していると聞いている。微細化が進むほど、微妙な温度制御によって加工形状のよしあしが決まる。従って、ノベックを代替調達できたからと言っても、安泰とは言えないのである。
異なる冷媒を混合することが難しいとしても、代替品を入手できた半導体メーカーは、まだ望みがある。しかし、日本メーカーは、より厳しい状況に陥っている。
というのは、フロリナート(型番FC-3283)と比較的物性値が近いノベック(型番7500)については、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(略称:化審法)によって、年間1トン以上の製造と輸入が禁止されているからである。
従って、フロリナートを使っていた日本の半導体メーカーの代替品の選択肢は、ソルベイのガルデンしかないということになる(ただし、型番HT235のガルデンはフロリナートFC-3283との互換性がかなり良いと言う。これは不幸中の幸いである)。
つまり、この化審法が改正されない限り、日本メーカーは、冷媒の調達において、極めて不利な立場に立たされていると言える。もしかしたら、冷媒の在庫が底をつき、稼働が止まる最初の半導体工場は、日本メーカーかもしれない。
しかし、そもそも、なぜ3Mのベルギー工場で、フロリナートの生産が停止したのだろうか?
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