生物が持つ遺伝情報を総合的に解析する「ゲノム解析」。ここ数年は、新型コロナウイルスの変異特定などにも用いられ、ニュースでも「ゲノム解析」という言葉をよく聞くようになった。今、そのゲノム解析の分野で、日本のスタートアップがイノベーションを起こそうとしている。2020年7月に設立された、Mitate Zepto Technicaだ。
生物が持つ遺伝情報を総合的に解析する「ゲノム解析」。ここ数年は、新型コロナウイルスの変異特定などにも用いられ、ニュースでも「ゲノム解析」という言葉をよく聞くようになった。今、そのゲノム解析の分野で、日本のスタートアップがイノベーションを起こそうとしている。2020年7月に設立された、Mitate Zepto Technicaだ。
半導体技術に高度な知見を持つエンジニアが集結した同社は、ゲノム解析を高速化するアクセラレーターの開発に取り組んでいる。実用化されれば、現在1人分のゲノムデータ解析にかかっている時間を50分から5分に、システム導入コストを2000万円から200万円に、従来比10分の1となる大幅な削減を実現できる可能性がある。
ゲノム解析技術が進化する発端となったのは、米国が1990年に開始した「ヒトゲノム計画」だ。米国のエネルギー省と厚生省によって発足したもので、30億米ドルの予算と15年の年月をかけてヒトゲノムの全てを解析するというプロジェクトだった。この間、ゲノム解析技術は着実に進化し、最終的には、当初の計画から2年前倒しした2003年に完了している。2005年の次世代シーケンサー(DNAの塩基配列を読み取る装置)の登場を経て、2020年には、約700米ドルのコストで1日で解析できるほど、ゲノム解析のコストと速度は飛躍的に改善している。
だが、Mitate Zepto Technica 取締役 副社長の橋本和洋氏は「1日でもまだまだ遅い」と述べる。コストの問題からもゲノム解析装置の不足や施設の不足が続いていて、これがゲノム医療の普及の遅れにつながっていると同氏は説明する。
同様の問題は日本にも存在する。日本では2019年6月から、「がん遺伝子パネル検査*)」が健康保険の適用対象となった。このような検査を利用して治療する「がんゲノム医療」に対応する病院は、日本には233カ所あるが、そのうち検体を採取して診断し、治療方針まで決定できる病院は45カ所しかない(2022年3月時点)。「検査だけで56万円ほどかかるといわれている。健康保険の適用で、3割負担であれば16万円になるが、それだけの費用をかけても、遺伝子変異に基づいた治療につながる可能性は10%とされている。データがまだまだ不足しているからだ」(橋本氏)
*)がんの発生に関わる、がん関連遺伝子の変異を一度に調べることができる検査(引用/参考:中外製薬)
ゲノム医療などを少しでも進歩させるべく、日本では、10万人規模のがん/指定難病患者のゲノムを解析する官民プロジェクトが2020年に始まっている。完了は2025年の見込みだ。さらに、厚生労働省は2020年12月に「全ゲノム解析等実行計画(第1版)」を策定。これまでに、がんについては約1万3000症例、難病については約5500症例の全ゲノム解析を実施してきた(参考:「全ゲノム解析等実行計画の進捗について」/2022年8月3日、厚生労働省)。このように、がんや指定難病の患者を中心として全ゲノム解析は始まっているが、「スーパーコンピュータ(スパコン)などを用いて解析しているので、リソースの都合によりなかなか作業が進まない」(橋本氏)のが現状だ。
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