今回は、1993年〜1996年の出来事を取り上げる。一般用のコンパクトデジタルスチルカメラ(略称はコンパクトデジカメ、コンデジ)がフラッシュメモリあるいは小型フラッシュメモリカードによって普及し始めた時期だ。
フラッシュメモリに関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」の会場では最近、「Flash Memory Timeline」の名称でフラッシュメモリと不揮発性メモリの歴史年表を壁にパネルとして掲げていた。FMSの公式サイトからはPDF形式の年表をダウンロードできる(ダウンロードサイト)。
この年表は1952年〜2022年までの、フラッシュメモリと不揮発性メモリに関する主な出来事を記述している。本シリーズではこの歴史年表を参考に、主な出来事の概略を説明している。原文の年表は全て英文なので、これを和文に翻訳するとともに、参考となりそうな情報を追加した。また年表の全ての出来事を網羅しているわけではないので、ご了承されたい。なお文中の人物名は敬称略、所属や役職などは当時のものである。
前回は、画像記憶用の小型フラッシュメモリカードについて1996年までの動きをまとめた。1990年に大きさが名刺大のPCMCIAカード(PCカード)、1994年に大きさが切手大のCompactフラッシュカード(CFカード)、1995年に大きさが切手大のスマートメディア(正式名称はSSFDC)がそれぞれ開発され、規格策定や普及活度を担う業界団体が設立された。
今回は、一般用のコンパクトデジタルスチルカメラ(略称はコンパクトデジカメ、コンデジ)がフラッシュメモリあるいは小型フラッシュメモリカードによって普及を始めた様子をご紹介する。時期は1993年〜1996年である。
初期のコンパクトデジカメで普及を最も促した製品と言えば、カシオ計算機の「QV-10」だろう。「カシオショック再び」(注:最初の「カシオショック」は1972年に発売された低価格の個人用電卓「カシオミニ」とされる)とまで言われた低い価格で1995年3月に発売され、カメラ業界に衝撃を与えた。
QV-10は2Mバイトのフラッシュメモリを内蔵しており、最大で96枚の撮影画像を記録できた。コストダウンのため、フラッシュメモリは本体のみであり、ストロボ(フラッシュ)は装備していない。
また本体の画像データを外部に転送するためには、オプション(別売り品)を購入する必要があった。用意されていたのはパソコン接続用キット(ケーブルとソフトウェア)と、専用のフロッピーディスクドライブである。
このような弱点があったにもかかわらずQV-10は大いに売れた。本体価格(税別)が6万5000円という当時としては破格に低い値段であったこと、本体背面に1.8インチのカラーTFT方式液晶モニターを装備したことでユーザーが撮影画面を即座に確認できたこと、さらにビデオ出力(NTSC方式)端子を備えるとともにビデオケーブルを標準添付としたことでユーザーは撮影画像をテレビ受像機で簡単に閲覧できるようにしたこと、などが大ヒットに寄与したとされる。
「QV-10」の登場は、それまでのデジタルカメラが装備していなかった、撮影画像確認用モニターを「デジカメの標準装備」とする原動力となった。「QV-10」の成功を見た大手のカメラメーカーや家電メーカーなどは、フラッシュメモリを活用した低価格デジタルカメラの開発を急速に進めた。
1996年11月には、カメラの大手メーカーであるコダック(Kodak)が一般用コンパクトデジカメ「DC25」を発売した。本体が2Mバイトのフラッシュメモリを内蔵しており、最大で29枚の撮影画像を記録できる。標準価格は5万9800円と、発売当時のQV-10(1996年3月に、QV-10は4万9800円に値下げされた)よりも低く抑えられた。
DC25が備える最大の特徴は、コンパクトフラッシュカード(CFカード)のソケットを本体に標準装備したことだろう。CFカードに画像データを記憶させることで、撮影枚数の制限を大幅に緩和した。発売当時のCFカード(コダックは「ピクチャーカード」と呼称)の価格は2Mバイト品が1万6000円である。
またパソコンへの画像データ転送キット(ケーブルとソフトウェア)を標準添付していること、シャッターと連動可能なストロボ(フラッシュ)を本体が備えていることも、QV-10との大きな違いだ。背面のモニターは1.6インチのカラーSTN方式液晶モニターであり、STN方式のためにTFT方式のQV-10に比べると画質は劣る。背面モニターは確認用であり、鑑賞用ではないとの割り切りが感じられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.