今回は、半導体業界にとって主要なアプリケーションの1つである自動車業界を例にとって、日本の半導体関係者が着眼すべきポイントについて、述べたいと思う。
前回、日本の半導体産業の「あるべき姿」について私見を述べたところ、多くの方々からコメントをいただいた。必ずしも全面的に賛同のコメントばかり、というわけではなかったが、筆者の着眼点や「このままではダメだ」という考え方には十分、賛同をいただけたと感じている。筆者としては「日本の半導体業界を復活させるために何ができるのか、何をすべきなのか、主張を続けることにはそれなりの意義がある」と自身に言い聞かせているところだ。今回は、半導体業界にとって主要なアプリケーションの1つである自動車業界を例にとって、日本の半導体関係者が着眼すべきポイントについて、述べたいと思う。
自動車向けの半導体、いわゆる車載半導体の市場規模は、2021年世界半導体市場の9%、金額にして約500億米ドルだったと(筆者が代表を務める)グロスバーグでは推定している。半導体市場の30%以上を占める情報機器市場や通信機器市場に比べれば、決して大きな市場とはいえないが、着目すべき理由として、以下のような点が挙げられる。
① 日本の半導体メーカー各社は、最先端プロセスを必要とするメモリやロジック分野に対して、一部の例外を除けば撤退や縮小という戦略が取られ、MCU、アナログ、ディスクリートといった分野への注力がみられる。これらのデバイス分野は、車載および、産業機器向けの需要が相対的に大きいことが特長で、日系各社にもこれらの分野に注力している企業が多い。
② 車載および、産業機器向けの半導体需要は、他のアプリケーションに比べて今後の変化が大きく、市場構造自体も変わる可能性が高い。特に自動車業界は、CASEが推進されることによって自動車メーカーのビジネスモデルまで変化を余儀なくされている。車載分野については、半導体を提供する側も使用する側も、大きな構造変化を前提に戦略を立てる必要がある。
では、自動車業界はどのように変わろうとしているのか。世界中の自動車メーカーのビジネスモデルを揺るがそうとしているCASEがもたらす変化とは、具体的にどのようなものなのか。ここで一度、復習してみよう。
クルマの巨大なIoTシステムの端末として位置付ける考え方で、クルマへのデータ配信、クルマからのデータ送信、双方を活用してさまざまなサービスが実現されることだろう。ハードウェアとしてはクルマの中にセルラーモジュールを1つ搭載する程度の変化なので、半導体業界への影響は限定的と思われる。
センサーから入力された情報を自動運転ソフトウェアと組み合わせる、というアプローチは、Waymo(Google)、Mobileye、ソニーなどのセンサーメーカーが自社製のプラットフォームを提供する戦略を打ち出している。これに対して、ドライバーのノウハウをAIプロセッサで実現させるアプローチは、自動車メーカー自身による戦略をNVIDIAなどがサポートしながら進められている。
Tesla、Appleのように、AIプロセッサを自力で開発する企業もあるが、レベル4の実現にはセンサーからとAIプロセッサからの両アプローチの組み合せが重要になるだろう。
トヨタ自動車やFord Motorなどが、これに関連するサービスを自社で立ち上げようと画策しているようだ。かつてIBMが、大型コンピュータの販売を中心としていたビジネスモデルを、これを活用したサービスに切り替えることができたように、自動車業界でも同様の変化を実現できるかどうか。ハードルは高そうだが、自動車メーカー自身によるチャレンジには注目したいものだ。半導体業界への影響は、あまり大きくないと言えそうである。
これまでエンジン開発に心血を注いできた自動車メーカー各社は、大きな方向転換を余儀なくされることになる。半導体メーカーにとっても、エンジン制御MCUで市場を寡占してきたルネサス エレクトロニクス、NXP Semiconductors、Infineon Technologiesの優位性に大きな影響を与えそうである。同時に、電動化に不可欠なパワー半導体の需要がすでに急増しており、市場ではIGBT、MOSFETといったパワートランジスタの奪い合いが繰り広げられている。
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