図2に、ドライエッチング装置用の冷媒の世界シェアを示す。3M社がベルギー工場で製造しているフロリナートが世界シェア約50%を占めている。また、同社が米国工場で製造しているノベックという商品名の冷媒が約30%となっている。それ以外では、ベルギーに本社があるソルベイ社が、ガルデンという商品名の冷媒をイタリア工場で製造しており、これが世界シェア約20%となっている。
ここで、3M社がベルギーで製造しているフロリナートが公害問題を引き起こし、ベルギーのフランダース地方政府から強制停止の命令を受けたため、ことし(2022年)3月8日にフロリナートの出荷が止まってしまった(正確には2021年末にフロリナートの製造が止まり、翌2022年3月8日に在庫が切れたため出荷停止になったと聞いている)。
世界シェア約50%のフロリナートの出荷が止まったため、世界中の半導体工場が稼働停止の危機に直面することになった。そして、フロリナートの代替品として、3M社のノベックとソルベイ社のガルデンに代替注文が殺到することになった。
その際、日本では、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(略称:化審法)により、年間1トン以上のノベックの製造と輸入が禁止されている。そのため、日本の半導体工場の代替調達の選択肢は、ソルベイ社のガルデンしかない状態となった。それ故、稼働停止の危機に陥った半導体工場が多数あった。
しかし冒頭で述べた通り、半導体工場の冷媒の在庫が切れかかる2022年6月末ごろに、3M社のベルギー工場がフロリナートの製造再開に漕ぎつけることができたため、危機一髪で最悪の事態は回避された。では、3M社のベルギー工場は、どのようにして、フロリナートの製造を再開するに至ったのだろうか?
3M社の2022年7月6日のニュースリリース“Agreement Reached Between the Flemish Government and 3M Belgium to Support the People of Flanders”を基に、同社がどのようにして(フロリナートを含む)PFASの製造再開に漕ぎつけたかを以下で説明する(図3)。
まず、3M社ベルギー工場は、フランダース地方政府に対して、同工場に最先端のPFAS処理技術を導入すること(1億1500万ユーロ)および地元農家を支援すること(500万ユーロ)の2点を、従来のコミットメントとして約束している。
これに加えて、3M社ベルギー工場は、新たなコミットメントとして、フランダースの土壌法の下で必要とされる追加の措置に2億5000万ユーロ、フランダース地方政府がPFAS排出について独自の裁量で使える資金1億ユーロなど、合計4億5130万ユーロ(約622億円)の支出を約束している。
この中で、最も大きな金額の2億5000万ユーロの支出により、3M社ベルギー工場は、周辺住民などに対して以下の4点の措置を行うとしている。
1)3M社ベルギー工場に隣接する住宅地(や庭園)の汚染土壌の修復と庭園の機能回復を行うこと(恐らくPFASで汚染された土壌を剥ぎ取るものと思われる)
2)ベルギー自然保護公園Palingbeekへの汚染された地下水の流入を減少させること
3)包括的な粉塵管理計画による、PFASを含む可能性のある土壌または粉塵の将来の風による飛散の防止を行うこと
4)施設に近接する農地およびレクリエーション用地の修復を行うこと
このように、3M社ベルギー工場が、従来のコミットメントと新たなコミットメントの合計で5億7100万ユーロ(約802億円)を支出することを、フランダース地方政府に約束した。その結果、3M社ベルギー工場は、2022年6月末に(フロリナートを含む)PFASの製造再開の許可を得たものと思われる。しかし、その半年後の12月20日、3M社は、(ベルキー工場だけではなく)全社的にPFASの製造から撤退すると発表した。それはなぜだろうか?
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