今回は、半導体不足が発生した原因から、今に至るまでの現状について分析し、今後の見通しについて述べさせていただく。
本連載の前回記事において、2023年の世界半導体市場を製品別に予測した。WSTS(世界半導体市場統計)の予測はメモリが楽観的すぎる、一方でディスクリートやアナログについては、もっと強気に予測してもよい、などと申し上げた。だが、そんなことより半導体不足問題はいつ解消するのか、今でも半導体不足で生産計画を達成できない機器メーカーはどうしたらよいのか、といった質問も多くいただいてしまった。特に自動車業界では「半導体不足は数年続くのではないか」などという、常識では考えられないようなウワサまで流されているようだ。そこで今回は、半導体不足が発生した原因から、今に至るまでの現状について分析し、今後の見通しについて述べさせていただく。
半導体不足が表面化したのは2021年の初頭。特に自動車業界が悲鳴を上げたことで社会問題へと発展し、何が足りないのか、なぜ足りないのか、といった議論が始まった。車載半導体は、MCU(マイコン)、アナログ、ディスクリートの比率が高く、ロジック、メモリの比率が低いことが特長で、これは産業機器向けの半導体分野も同様である。PCやスマホのように、大量のデータをやり取りする情報処理系のアプリケーションではメモリやロジックの比率が高くなる。一方で車載は「走る」「曲がる」「止まる」などの制御系が中心のため、メモリやロジックへの依存度があまり高くない。ところが、この特長が半導体不足問題と密接な関係があったのである。この点について詳しく述べてみたい。
事の発端は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生に伴うパンデミックで、2020年初頭から世界中が混乱に陥った。当初は何が必要で何が不要なのかさえ混乱したが、リモート需要でPCが売れ、GAFAなどクラウドサービスプロバイダー各社への依存度が高まったことでデータセンターへの投資が増えるなど、情報処理系のアプリケーションは早い時期から需要が堅調であることが確認できていた。スマホ需要は必ずしも好調ではなかったが、5G(第5世代移動通信)対応端末供給が需要に追いつかない、といった側面もあった。結果としてメモリやロジックの需要は増え、メモリメーカーやファウンドリー各社は積極的な設備投資を行い、微細化/大容量化のニーズに対応してきたのである。
一方で、微細化や大容量化とは無縁のマイコン、アナログ、ディスクリート向けには、それほど積極的な設備投資は行われていなかった。むしろ2020年前半はクルマの需要が激減するなど、車載半導体の需要が活性化することは予想できなかった、といった方がよいだろう。
2021年になっても新型コロナウイルスの拡散は続いていたが、対処方法が安定し始めたことで、世界経済活動は徐々に通常を取り戻そうとしていた。クルマの生産レベルを元に戻そう、産業活動も通常レベルへの復帰を目指そうとしたら、部品や材料が入手できずに十分な生産ができないことが発覚した。さまざまな部品や材料が不足した中で、半導体不足が特に問題視されたのは、製造納期が平均3カ月と長いこと、製造能力を増強するためにはさらに2年近い時間がかかることなど、急激な需要の変化に対応できないためである。世界半導体市場が5800億米ドルを超えるまでに成長したのは、PCやスマホなど情報処理系の電子機器がけん引役となったことが最大の要因だが、マイコン、汎用アナログ、ディスクリートなど汎用性の高い半導体が、ありとあらゆる電子機器に搭載されるようになったことも大きな要因である。この結果、事業規模のあまり大きくない半導体ユーザーが世界中に散在しているのが現状である。
新型コロナウイルスへの対処方法が安定し始めた、とはいっても、地域によってはロックダウンが行われ、通関業務が滞って貨物が港や空港から動けないなど、必要な場所へ必要なモノが届けられない、という状況が長らく続いた。半導体メーカー各社は供給能力を増やすよう努力し、売り上げが伸びたにもかかわらず、ユーザー側は計画通りの生産ができていない。例えば自動車業界ではこの2年間、年初の生産計画を達成できた自動車メーカーは1社もないのではないだろうか。特に電動化を競い合っている状況下では、クルマ1台当たりに必要なパワートランジスタの数量が増加傾向にあるため、xEVへのシフトが生産台数を減らす要因になってしまうのである。
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