電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池の正極材は、三元系正極材(NMC、ニッケル・マンガン・コバルトが主成分)と、リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)が優勢だ。どちらが適切なのだろうか。
多くの商用バッテリー技術の中でも、リチウムをベースとするバッテリーは、2つの主要な性能指数で優れている。体積エネルギー密度と重量エネルギー密度だ。当然ながら、「リチウムイオンバッテリー」という用語には、さまざまな化学的、構造的配置が含まれる。あらゆるバッテリーと同様、リチウムイオン電池にも正極と負極がある。
電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池では、正極材として三元系正極材(NMC、ニッケル・マンガン・コバルトが主成分)と、リン酸鉄リチウム(LiFePO4またはLFP)が優勢だ。EV向けとしては、どちらがより優れたバッテリーなのだろうか? 一般的な見解としては、NMCバッテリーの方が、LFPよりもエネルギー容量が多いとされる。そのため、走行距離が重要なパラメーターとなるEVには向いているように見えるかもしれない。一方で、より高価でもある。
では、どれくらいの価格差があるのだろうか? これは答えるのが難しい質問である。なぜなら、コストはバッテリー構造の基礎となるコモディティの価格変動に大きく依存するからだ(この場合「コモディティ」とは、電球やPCのように「幅広く、容易に入手可能で、価格がほとんど差別化されていない」という意味ではない。主要な材料としては使われる基材を指す)。鉄をベースとしたバッテリーセルのコストは、欧米で幅広く使われているニッケル・コバルトの組み合わせよりも安い。
エネルギー密度以外で、バッテリーの重要な性能指数としては、当然ながら価格が挙げられる。コモディティの価格変動により数値は変わるものの、おおよその推定ではLFPセルが約70米ドル/kWhで、約100米ドル/kWhのNCMセルより30%安価だ。
自動車メーカーは、より手頃な価格のEVを開発する取り組みの一環として、そのような低コストな種類のバッテリーに移行しつつあるが、走行距離は短くなる。これは、一部の地域では大きな懸案事項になる一方で、そこまで問題にならない地域もある。LFPバッテリーは、世界最大の電気自動車市場である中国で好んで使われている。
AlixPartners 2022 Global Automotive Outlookによると、LFPバッテリーは既に世界EV市場の17%を占めており、マスマーケットへの潜在的な道筋を示している。Teslaは2021年10月、標準走行距離モデル車(「Model 3」と「Model Y」)のバッテリーをLFPに切り替えていることを明らかにした。一方で同社は、長距離走行モデル車についてはNMCセルの採用を続けるという。また、ウォール街などで注目を集めている小型電気トラックの新興メーカーであるRivian Automotiveは、車両にLFPバッテリーを使用する予定だとしている。
さまざまな種類のバッテリーの予測は、こうした予測ではよくあるように、曖昧である。従来は、“より優れた”NMCバッテリーがEV市場を席巻すると考えられていたが、その知見は少し違っているかもしれない。米国の資産運用会社であるARK Investment Managementのレポートによると、継続的なコスト低下やニッケル供給の制約、EVの効率向上によって、LFPバッテリーの市場シェアは2021年の約33%から2026年には約47%に増加する見通しだ。
もちろん、こうした予測を立てるのはなかなか難しい。例えば、スイスを拠点とする大手金融グループであるUBS GroupでEVバッテリーのグローバルリサーチを担当するアナリストは、以前はLFPバッテリーを搭載したEVは2030年に世界市場の15%を占めると予想していたが、現在はその数字を40%に上方修正している。
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