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投稿論文が激増した「VLSIシンポジウム2023」、シンガポール国立大が台頭湯之上隆のナノフォーカス(62)(3/6 ページ)

» 2023年05月24日 11時30分 公開

Technologyの投稿・採択論文数、採択率

 図5に、Technologyの投稿・採択論文数および採択率の推移を示す。全体の投稿論文数のところでも触れたが、2023年のTechnologyの投稿論文数は異常に多い。図5にも書いてある通り、ここ10年間で最多の273件が投稿された。また、いつもなら京都開催の投稿論文数は、ハワイ開催より少ない傾向が続いていたが、2023年は、昨年2022年のハワイ開催よりも41件も多い。

図5 VLSIシンポジウム2023のTechnologyの投稿・採択論文数と採択率[クリックで拡大] 出所:2023年4月25日に行われたVLSIシンポジウムの記者会見の資料の抜粋

 この異常現象について記者会見のQ&Aで、「プログラム委員はどのように解釈しているのか?」と聞いたところ、「とても驚いている。もしかしたら、コロナのリスクが去ったということがあるかもしれない」という回答だった。つまり、「もうコロナは終わった、(観光も兼ねて?)京都に行くぞ!」という空気に満ち、それで爆発的な投稿数につながったというわけである。その要因は大きいかもしれない。

 これに加えて、筆者は、昨今の半導体の動向として、トランジスタのGAA(Gate All Around)、トランジスタの裏面から電源を供給するPower Via、3D ICなど、世界的に研究開発が進められている技術が多数あることを挙げたい。要するに、半導体の技術が大きな転換点を迎えていることも、投稿論文数の増大に寄与しているのではないだろうか?

Technologyの地域別の投稿・採択論文数

 図6に、Technologyの地域別の投稿論文数の推移を示す。上下動が激しく、とてもぐちゃぐちゃしていて、目がチカチカする。ここから、何とか傾向を読み解こう。

図6 Technologyの地域別投稿論文数の推移[クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウムの記者会見資料等を基に筆者作成

 まず、2007〜2011年頃までは、米国と日本が1位と2位だった(2007年は日本が59件で1位である)。ところが、日本の投稿論文数は急激に減少していき、2017年には17件まで低下する。その後は、上下動しながら横ばいが続いているように見える。

 一方、米国は、激しく上下動しながらも、2021年まではトップ争いをしていた。ところが、2022年以降に、台湾、中国、欧州、韓国に抜かれてしまった。その結果、2023年は、急激に論文数を増やしてきた中国が1位(57件)、2位が韓国(52件)、3位が台湾と欧州(43件)、5位が米国(35件)、6位が日本(25件)、7位がシンガポール(16件)の順となった。

 Technologyの投稿論文数だけを見ると、もはや日米は主役とは言えない状態となっている。では、採択論文数はどうなっているのか?

 図7に、Technologyの地域別の採択論文数の推移を示す。2007〜2010年は、日本が1位だった。しかし、2013年に一瞬、30件で1位になった後、日本の採択論文数は急速に減少した。

図7 Technologyの地域別採択論文数の推移[クリックで拡大] 出所:VLSIシンポジウムの記者会見資料等を基に筆者作成

 そして、日本に替わって米国が1位となり、2013年に日本に抜かれたがすぐ抜き返し、2016〜2017年は欧州に抜かれたが2017年に再び1位に返り咲いた。しかし、2020年以降は、米国、台湾、欧州、韓国の4つの国/地域による混戦となっている。その結果、2023年に、1位は急成長してきた韓国(20件)、2位は台湾(16件)、3位は米国(15件)、4位は欧州(13件)、5位は日本とシンガポール(10件)、投稿論文数で最多だった中国はわずか5件となっている。

 中国は投稿論文が57件で最多だったが、採択論文数が少ない。要するに採択率が悪いわけだが、中国内で半導体のR&Dが活発であることは明らかである。そのR&Dのクオリティーが上がってきたら、VLSIシンポジウムの勢力図が塗り替わるかもしれない。

 Technologyの次は、Circuitsの論文数を分析する。

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