ダイソンが初のオーディオ端末として空気清浄ヘッドフォン「Dyson ZONE」を発売した。得意分野の空気清浄機と新たな領域であるヘッドフォンを1つの商品にした理由や気になる使用感を探るべく、メディア体験会に参加した。
2023年で日本法人設立から25周年を迎えるダイソン。2023年5月24〜28日の5日間、25周年記念最新テクノロジー体験イベント「Dyson Launch Pad(ダイソンローンチパッド)-ダイソンの出発点」を開催した。同イベントではダイソン製品の歴史やサステナビリティへの取り組みが紹介されたほか、空気清浄ヘッドフォン「Dyson ZONE」をはじめとする新製品が展示された。
注目は2023年5月23日に日本に初上陸した「Dyson ZONE」。ダイソン初のオーディオ機器だ。8つのマイクを使ったアクティブノイズキャンセリング(ANC)システムで周囲の音を1秒間に38万4000回モニタリングし、最大38dBまで低減する。再生できる周波数は6Hz〜21kHzと、人間の可聴域を超えた設計になっている。イコライザ―は特定の音域を強調しないニュートラルな設定で、クリエイターが意図した通りの音を楽しめるという。専用アプリを使えば、低音をより響かせたいなど、好みに合わせた音を楽しめる。
最大の特徴はこれが空気清浄機でもあることだ。鼻と口を覆う非接触型シールドを左右のイヤーカップにマグネットで装着して使う。イヤーカップ内のコンプレッサーがフィルターを通して空気を吸い込み、浄化された空気がシールドから鼻と口に流れてくる。シールドは顔に直接触れない構造だ。フィルターは二層構造で、静電フィルターが花粉やウイルスなどの微粒子を捕集し、活性炭フィルターが二酸化窒素などを除去するという。交換用フィルターも購入できる。
ダイソンは空気清浄機を数多く開発してきたとはいえ、ヘッドフォンと組み合わせるというのはずいぶん奇抜なアイデアだ。背景には都市部の生活者が直面する「騒音」「大気汚染」という社会問題があった。駅や大通りでの騒音は一瞬であっても毎日の蓄積で聴力を低下させる。また、世界人口の99%がWHO(世界保健機関)の定める基準値以上に汚染された空気の中で生活している。2050年には世界人口の70%以上が都市部で生活することになるという予測がある中、騒音と大気汚染の双方に対処する製品としてDyson ZONEを生み出したという。開発には6年を要し、500以上のプロトタイプを製作した。
Dyson ZONEの開発では、これまでの製品開発と異なるハードルは多かった。ダイソンにとってはウェアラブルデバイスの開発自体が初めてのことで、人それぞれ違う頭や顔の形にフィットする形状を作り上げることに苦労したという。オーディオ機器と空気清浄機という全く異なる機能を持つ製品ならではの課題もあった。ダイソンがこれまでに掃除機や室内用の空気清浄機に使用してきたフィルターはサイズが大きく、身に着けて日常生活を送るヘッドフォンには搭載できなかった。耳元に装着するため静音性の要求水準も高く、試行錯誤の末にイヤーカップ内のモーターは固定せず宙吊りになるように設計することで振動や音がイヤーカップを通じて耳へ伝わるのを防いだという。
Dyson ZONEを実際に使用してみた。シールドはマグネット式でイヤーカップに簡単に着脱できる。使用中に外れてしまうようなことはないが、ヘッドフォンを外し、机に置こうとして手を離すと左右のイヤーカップ同士が近づいてシールドに内向きの力がかかり、ヘッドフォン本体から外れてしまうので注意が必要だ。また、イヤーカップに付けたままシールドを口元から下ろすことができ、このときは「会話モード」としてオーディオ再生とノイズキャンセリング機能、空気清浄機能が一時停止する。
空気清浄機能は送風量が弱、中、強、自動の4パターンから選択でき、左のイヤーカップ後方のボタンから操作する。送風量を強にして試してみると、動作音は聞こえるが、耳元で空気清浄機が動いているわりにはとても静かで、個人的には気にならない。特にノイズキャンセリングをオンにしてオーディオ再生をしているときは意識することもない程度だと感じた。
ノイズキャンセリング機能は左右どちらかのイヤーカップを2回トントンとタップするとオンオフの切り替えができる。強めにタップする必要があり弱い力ではなかなか切り替えができなかったが、一度切り替えるとしっかりと周囲の音を抑えてくれる。今回の会場には多くの人がいて近くで複数人が会話をしていたが、好きな音楽に没頭できそうだった。
オーディオは右のイヤーカップ後方にある短いスティック状のボタンで再生や停止、早送りや音量調整も操作できる。
着用ルールが緩和されたとはいえ、感染症に気を遣ってマスクを使う生活にはこの3年間でずいぶん慣れた。生活様式が変化するにつれ、たとえ感染の不安が軽減されても大勢の人と同じ空気を吸うこと自体が気になるようになった人もいるのではないだろうか。ノイズキャンセリング機能つきのヘッドフォンはすでに定番の選択肢だが、今後は大気汚染や感染症から身を守るため、“自分専用の空気清浄機”が付いたヘッドフォンを選ぶ人も増えていくかもしれない。
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