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高エネルギー密度バッテリーの米国Ampriusが始動シリコンアノードを開発(1/2 ページ)

シリコンアノードを用いた高エネルギー密度バッテリーを手掛ける米国のAmpriusは、2025年に工場の稼働を開始する。数年以内には、同社製バッテリーが空飛ぶクルマに搭載可能になる見込みだという。

» 2023年06月13日 14時30分 公開
[Alan PattersonEE Times]

米国エレクトロニクスサプライチェーンの”弱点”を補強

 Ampriusは、ドローンや航空機などに電力を供給する高エネルギー密度バッテリーを製造しているメーカーだ。同社は現在、電気航空機の実現に向け、最初の工場を開設するところだ。

 創業15年を迎えるAmpriusは、英国の防衛最大手BAE Systemsや、世界最大の航空機メーカーであるAirbusなどの顧客企業を確保している。数年以内には、自社製バッテリーを空飛ぶクルマに搭載できるようになる見込みだという。

 AmpriusのCTO(最高技術責任者)を務めるIonel Stefan氏は、米国EE Timesの取材に応じ、「空飛ぶクルマは現在のところ、飛行時間が15〜20分間程度で、そのうち約4分間を離陸と着陸に要する。これは、1kg当たり約300ワット時(Wh)のバッテリーを搭載した最高クラスの空飛ぶクルマの場合で、約20〜30マイル(約32〜48km)の飛行距離に相当する。これが400〜500Whになれば、飛行距離を100〜200マイル(約160〜320km)に伸ばすことが可能だ。空飛ぶクルマが、どれくらい多くの用途を提供できるようになるのかを想像してみてほしい」と述べている。

AmpriusのCTO、Ionel Stefan氏 出所:Amprius AmpriusのCTO、Ionel Stefan氏 出所:Amprius

 Ampriusの動きは、半導体やPCB(プリント基板)などを含む米国のエレクトロニクスサプライチェーンにおけるもう1つの弱点を補強する、より大規模な取り組みを浮き彫りにしたといえる。米国の市場調査会社Polaris Market Researchによると、世界の電気自動車(EV)用バッテリー市場は、2021年には500億米ドル規模だったが、2030年にはその4倍超となる2260億米ドル規模に達する見込みだという。

 現在業界では、アジアのメーカーが優勢を確立している。Ampriusは製造開始に向け、米国政府からの補助金を受けている。

 Stefan氏は、Ampriusのバッテリーを搭載した空中シャトルが、交通拠点の間を数百キロメートル飛べるようになる日が来ることを思い描いているという。試験を行う可能性があるロケーションとしては、3つの国際空港がある米国シリコンバレーが挙げられる。

 同氏は、「サンフランシスコとサンノゼ、オークランドの3つの国際空港がある。飛行距離は短く、最大でも15分程度で移動可能だ。約1時間かかる車での移動と比べると、はるかに良いだろう」と述べている。

 Ampriusは現在、世界EV用バッテリー市場全体の約35%のシェアを確保している中国のContemporary Amperex Technology(CATL)をはじめ、さまざまなスタートアップや実績あるライバル企業などがひしめく成長産業への参入を進めている。CATLや小規模なライバル企業は、高価な上に精製が困難で環境にも有害なリチウムを置き換えるべく、新しい電池材料を試しているところだ。

「業界最高クラス」のエネルギー密度

 Ampriusは、シリコンアノード材料を開発している。

 Stefan氏は、「シリコン自体には、グラファイトと比べて約10倍のリチウムイオン貯蔵能力がある。この部分だけを置き換えれば、グラファイトに対して80〜100%超の性能向上を容易に達成できるだろう」と述べる。

 「シリコンの主なメリットの一つに、アノードがグラファイトと比べてかなり薄く、超高速充電が可能になるという点が挙げられる」(Stefan氏)

 同氏は、「純粋なシリコンは、非常に高い能力を持つ。われわれは、一部のセル設計で5分間の充電能力があることを実証している」と述べる。

 航空輸送用途では、車両は15分間の離着陸で1日当たり約12往復を飛行することになるため、バッテリーの急速充電が不可欠だ。たいていの場合、1回のフライトで1回のバッテリー充電分を消費するとみられる。

EV業界の専門家であるSandy Munro氏 EV業界の専門家であるSandy Munro氏

 EV業界の専門家であるSandy Munro氏は、EE Timesの取材に応じ、「Ampriusは、その重量定格(1kg当たりのエネルギー)と体積定格(体積当たりのエネルギー)で他に抜きん出ている」と述べる。

 「Ampriusは実際に、重量測定において非常に素晴らしいチャートを提示している。これが航空機向けに使われれば、確実に競合を上回ることになるだろう」(Munro氏)

 Ampriusによると、市販されている同社製バッテリーは、最大で500Wh/kgおよび1150Wh/Lという業界最高クラスのエネルギー密度を提供するという。だが、CATLも、空飛ぶクルマ用の新型バッテリーで同程度の性能を実現したと発表している。

 Munro氏は、「Ampriusの重量測定数値は、Teslaの最高クラスのEV用バッテリーと比べて2倍の性能を示している」と述べている。同氏が経営するMunro&Associatesは、Mercedes-Benzの他、Teslaなどの米国やアジアのさまざまな自動車メーカーのコンサルタントを行っている。

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