産業革新投資機構(JIC)がTOB(株式公開買い付け)により、半導体材料メーカーのJSRを買収する。JSRは公開買い付け成立後に非公開化を予定。その後、事業成長や価値向上を実現してから再上場を目指す方針だ。
JSRは2023年6月26日、JICC-02による買収計画を取締役会で承認したと発表した。JICC-02は、産業革新投資機構(JIC)の傘下であるJICキャピタル(JICC)の100%子会社である。
買収は、JICC-02によるJSRの株式公開買い付け(TOB)の形で実施する。買付価格は、普通株式1株当たり4350円で、総額は約9000億円になる見込みだ。TOBは、国内外の規制当局の承認を得た上で、2023年12月にも開始する予定になっている。公開買い付け成立後は、スクイーズアウト手続きにより、JSRは上場を廃止し、JICC-02の完全子会社となる。
JSRのCEOを務めるEric Johnson氏は同日に開催されたオンライン記者会見で、今回の取引の背景について、経営基盤の強化、半導体材料業界再編の加速、そしてグローバルな競争の加速を狙うものだと説明した。「今後も半導体材料業界で最先端を走るためには、大規模な投資が必要であり、国際的な競争力も担保しなくてはならない。長期的な成長力を維持するために必要だった」(同氏)
特に、非公開化を選択した理由については「国内の半導体材料業界の再編に向けた意思を明確にするため」と繰り返した。政府系ファンドの傘下にあるという中立性を生かして、パートナー候補の企業と協議を進めることが可能になるとし、円滑な業界再編や統合が期待できるとした。
「日本の半導体材料業界はプレイヤーが多く、それぞれが重複した投資を行っている。激しい競争にさらされているのは各社とも同様の状況で、グローバルな競争力を高めるためには、投資の効率を高める必要がある。(今回の取引により)当社が“促進役”となって、業界再編の動きにつなげていきたい」(同氏)
なお、業界再編に向け、他の企業との協議や何らかのオファーは「現時点ではない」(Johnson氏)という。
さらに、JSRは「本取引を通じて事業成長および企業価値向上が実現した後は、再上場を目指す方針」としている。Johnson氏は「再上場やIPO(新規株式公開)の時期というのは予想しにくいものではあるが、5〜7年後くらいを考えている」とした。
JICは、前身である産業革新機構(INCJ)の時代から、特に半導体業界においては、経営難に陥った企業を支援する目的で出資することが多かった。2012年には、ジャパンディスプレイ(JDI)とルネサス エレクトロニクスを買収。2014年以降はJOLEDも支援している。Johnson氏は「当社は財務的に健全であるが、さらに成長を加速しないといけない。JSRは業界においても強い立ち位置を維持している。だからこそ、今、業界再編に乗り出すことによって競争力を高めることにつなげられると考えた」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.