完全な自動運転――。その響きは魅力的ですが、その実現には依然としていくつものハードルがあります。では少しでも実用化に近づくにはどうすればいいのでしょうか。その答えは「遠くを見すぎないこと」です。
夢のようなテクノロジーに心躍らせるのは簡単ですが、それを実現するのは至難の業です。そうした未来のテクノロジーの一つが自動運転です。
米国だけでも2020年の自動車事故による死亡事故件数は3万8824件、傷害事故件数は11万5000件に上ります[1]。その経済的損失は4740億米ドル[2]と推定されており、この中には逸失利益、医療・管理費、自動車の損害および無保険によるコストが含まれています。貴重な人命が失われる事故とそれに関連した経済的損失を減らすべく、自動運転技術の開発によってこれらの悲劇の20〜50%を防ぐことが一つの目標といえるでしょう。
[1]米国運輸省 NHTSA: DOT HS 813 283 A Brief Statistical Summary April 2022/[2]Bankrate: Lizzie Nealon、2022年7月26日付
自動運転車のビジョンは既にあるものの、その実現までには依然としていくつものハードルがあり、予想以上の時間がかかるものと思われます。いずれは人間の創造力によってそれらのハードルを乗り越えられる日がくるかもしれませんが、そう簡単にはいかないであろうことは容易に想像できます。
ひとまず短期的視点に立ち、自動運転の現実を理解することで、企業やエコシステムは、自動運転の採用について、より判断しやすくなるでしょう。未来のテクノロジーに重点を置きすぎてしまうと、消費者は、現在活用できる自動安全機能が搭載されたクルマの購入を先送りし、自動車の売り上げに悪影響を及ぼしかねません。
現在と未来のテクノロジーに関して自動車業界が想定していることをまとめたものが「自動運転レベル」(図1)です。下位のレベルになるほど、車線逸脱検知、障害物回避、車間距離制御、事故防止システムといった、運転者の介在を前提とする機能が提供されています。レベル2以上が自動運転と見なされています。レベル4以上は完全な自動運転と見なされ、運転上の判断は全てクルマが行います。
問題は、クルマの走行環境が一様ではないことです。高速道路を走るだけなら、近い将来にはレベル4の自動運転を実現できるかもしれません。高速道路での運転は、他のシナリオでの運転に比べれば比較的シンプルです。とはいえ、高速道路にも出口ランプや不明瞭な車線、工事区域といった障害はあります。事故が発生することもあるでしょうし、避けなくてはならない落下物があるかもしれません。
現在、Mobileye、Tesla、Cruise、Kodiak Roboticsの各社から提供されている自動運転システムは、この程度の障害には十分対処できるくらいに優れています。しかしながら、一般道や駐車のシナリオはより複雑で、数段上のテクノロジーと安全性が要求されます。都市部や市中での運転では、レベル4以上の運転が極めて困難になるほど複雑度がさらに増します。
今日のテクノロジーでは、現行のインフラで混雑する街中を自動運転で走行することは不可能に近いです。ロボットの最大の敵は人間ですが、このことは歩道、ペット、子供、標識等があふれる街中を走る自動運転車にも当てはまります。
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