半導体業界の人材不足が各国/地域で深刻になっている。この影響により、TSMCは米国新工場の稼働開始を1年延期した。人材を確保できなければ、政府の半導体支援策の効果は乏しくなると業界関係者は指摘する。
世界半導体業界では、人材不足が成長を妨げる最大要因となっている。その最新の影響として挙げられるのが、TSMCの工場稼働の遅れだ。同社は2023年7月、米アリゾナ州に建設中の新工場の稼働開始が、2024年から2025年にずれ込むことを明らかにした。米EE Timesがインタビューを行った経営幹部やアナリストたちによると、米国の「CHIPS法(正式名称:CHIPS and Science Act)」のような、地域に根差した安全なサプライチェーンの構築を目指す政府刺激策が、この問題をさらに大きくしているという。
工場の労働者の報酬は上昇しているが、有能な労働力の供給増加にはつながっていない。半導体エンジニアの高齢世代が引退を迎えようとしている中、半導体メーカーはその後任となる若手人材をなかなか見つけられずにいる。
経営コンサル会社McKinseyによると、米国では、CHIPS法によってテキサス州やアリゾナ州の新工場建設に2000億米ドルを超える資金が投入されているが、10万人を超える熟練労働者の採用枠をまだ埋められずにいるという。
McKinsey半導体事業担当グローバル共同リーダーを務めるOndrej Burkacky氏は、EE Timesの取材に応じ、「さまざまなレベルで人材不足が問題になっている。まずは建設分野から始まり、全体へと続いている」と述べる。
TSMCは、建設を加速させるべく、台湾からアリゾナ州フェニックス近郊の新工場へ技術者を送り込むとしているが、その人数については明かしていない。TSMCの広報担当者であるNina Kao氏は2023年7月初め、EE Timesの取材に対し、「TSMCのアリゾナ工場の建設活動には熟練技術者が必要なため、豊富な経験と専門技能を持つえり抜きの人材を、一時的にアリゾナ工場へ派遣する」と述べている。
McKinseyが2023年に発表したレポートによると、米国ではこれまで大規模な工場建設が20年以上行われておらず、そのような特殊なプロジェクトを提供するために必要な実績や能力、専門知識を持つ建築業者は国内にほとんど存在しないという。
その一方で、建設は急増している。McKinseyによると、半導体や防衛、航空宇宙、バッテリー、最先端エレクトロニクス、自動車などの分野のメーカーは、米国の建設プロジェクトに約4000億米ドルを投資する見込みだという。そのうち約2600億米ドルが半導体工場の新設や拡張に充てられ、残りの資金はバッテリー工場やデータセンター、再生可能エネルギー工場の他、さまざまな重要インフラに投じられるとみられる。
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