Texas Instruments(TI)が、フォトカプラとピン互換性を持つ絶縁ICの新製品を発表した。信号の送信回路/受信回路によってフォトカプラの機能を模擬するもので、LEDを搭載していない。LEDの経年劣化による絶縁性能の低下がなくなるので、システム全体の絶縁寿命を延ばせるという。
Texas Instruments(TI)は2023年9月、絶縁デバイスの新製品「フォトカプラ エミュレータ」を発表した。製品名の通り「フォトカプラの機能を模擬する」アナログCMOSベースの半導体ICで、既存のフォトカプラとピン互換性を持つ。経年劣化を起こすLEDを搭載していないので、フォトカプラ エミュレータに置き換えるだけで、システムの絶縁寿命を延ばすことができるのが大きな特長だ。
フォトカプラ エミュレータは、信号送信回路と受信回路および、その間に設けられた誘電体で構成される。送信/受信回路で、フォトカプラの機能をエミュレートしている。誘電体に、TIが開発した独自の二酸化ケイ素(SiO2)ベースの誘電体を用いることで、500VRMS/μmと高い誘電強度を実現した。このため、特に、高電圧の産業用および車載用アプリケーションで絶縁強度を上げることができる。さらに、SiO2ベースの絶縁体は堅ろう性があり、フォトカプラ エミュレータの絶縁性能は最大40年持続するという。「同製品を用いることで、最終製品の絶縁寿命を最大40年延長できる」とTIは強調する。
TIは、SiO2ベースの絶縁膜を用いた「デジタルアイソレータ」などの絶縁製品をそろえていて、フォトカプラ エミュレータはその中で最新のカテゴリーになる。出力が異なる3品種があり、オープンコレクタ出力の「ISOM8711」、デジタル出力の「ISOM8710」、アナログ出力の「ISOM8110」が現在のラインアップだ。
フォトカプラは、LEDと受光素子、その間にある絶縁材で構成される。安価で市場実績も多いが、LEDの経年劣化によってフォトカプラの絶縁性能が低下し、システム全体の絶縁寿命に影響することが課題だった。それ故、フォトカプラを使う場合、LEDの経年劣化による影響を考慮して過剰設計することが一般的になっている。オーバースペックの部品を使うことになるので、システム全体には常に余分な順方向電流(IF)が流れていて、消費電力が増えてしまう。過剰設計は部品コストの増加や設計の複雑化を招くことも多い。
さらに、電気自動車(EV)で採用され始めている800Vのバッテリーシステムをはじめ高電圧の産業機器やシステムが増える中、フォトカプラの絶縁材として使われる空気(誘電強度は最大1VRMS/μm)やエポキシ(同20VRMS/μm)だと、絶縁強度が十分ではないことも課題になっている。
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