世界半導体市場は、メモリの予想以上の低迷が主要因で、前年を下回るマイナス成長がかれこれ1年以上も続いている。今回は、メモリメーカーで唯一の日系企業であるキオクシアの今後の見通しについて考えてみたい。
世界半導体市場は、メモリの予想以上の低迷が主要因で、前年を下回るマイナス成長がかれこれ1年以上も続いている。DRAMもNAND型フラッシュメモリ(以下、NANDフラッシュ)も、2023年4〜6月期の落ち込みが特にひどかった。2023年7〜9月期にはボトム期を脱したようだが、どちらも回復力が弱く、各メモリメーカーにとって厳しい市況が続いているのが現状である。ここで気になるのが唯一の日系企業であるキオクシアの状況である。親会社の東芝から分社した後、IPO(新規上場)のチャンスが過去に3回ほどあったがいずれも見送っている。昨今ではWestern Digital(以下、WD)との統合話まで持ち上がっている。今回は、キオクシアの今後の見通しについて考えてみたい。
キオクシアの話に入る前に、メモリ市場の現状について整理しておこう。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2022年の世界メモリ市場は1298億米ドル、このうちDRAMが778億米ドル(メモリ全体の60%)、NANDフラッシュが471億米ドル(同36%)、つまりこの2つでメモリ市場の96%を占めていることになる。DRAM市場をけん引しているメーカーは、Samsung Electronics(以下、Samsung)、SK Hynix、Micron Technology(以下、Micron)の3社で、DRAM市場の約95%を寡占している。一方のNANDフラッシュ市場は、DRAMの主要3社にキオクシアとWDを加えた5社がけん引しており、この5社でやはり約95%を寡占している。
DRAMもNANDフラッシュも、主要アプリケーションはPC、スマホ、データセンターであり、主なユーザーの顔ぶれも極めて似たり寄ったりである。現時点ではPCもスマホも需要が低迷し、データセンター向けの投資も減少している。そのため、DRAMもNANDフラッシュも厳しい市況が続いている、というわけだ。
下表は、キオクシアの四半期売上高と利益を示したものである。これを見ても分かる通り、同社は四半期ごとに1000億円を上回る赤字を計上しているのが現状である。2023年11月には2024年3月期第2四半期(7〜9月期)の決算が発表されるだろうが、同第1四半期(4〜6月期)より多少改善している程度ではないか、と推察される。
DRAMもNANDフラッシュも好不況の波が激しく、いわゆるシリコンサイクルを形成しやすいことで知られている。今は不況でも、2年後の2025年には好況になるだろう、それまでの辛抱だ、という見方もある。しかし、「回復するのはDRAMだけで、NANDフラッシュの回復は期待できない」という見方も存在する。この見方はキオクシアにとって死活問題に発展しかねないので、もう少し掘り下げて分析してみよう。
DRAMもNANDフラッシュも2023年4〜6月期がボトムで、2023年7〜9月期から徐々に回復が期待できることはすでに述べた通りである。しかし、それはPCやスマホの在庫調整が終わった、というだけで、今後の需要がどれだけ盛り上がるのかは分からない。PCやスマホの需要が活性化するためには、第5世代移動通信(5G)を活用したサービスやアプリケーションが立ち上がることが重要だと、筆者は本連載でも過去に何度か主張してきた。残念ながら、現時点で「これだ」というサービスはどこを探しても見当たらない。
一方で、Chat GPTに代表される生成AIは徐々に普及しつつあり、AIプロセッサで高いシェアを誇るNVIDIAは急速に売上高を伸ばしている。NVIDIA以外にAI関連の追い風を受けている企業はまだ見当たらないが、AIプロセッサの需要増はDRAMの需要を活性化させる可能性が高い。HBM(High Bandwidth Memory)という高速データ転送DRAMをAIプロセッサの周辺に配置する必要があるからである。DRAMに比べて読み書き速度の遅いNANDフラッシュは、このような特需が期待できない。
筆者としては、生成AIが5Gサービス立ち上げのきっかけになってくれるのではないか、という期待を寄せている。ただ、そうならなかった場合、DRAMだけ需要が盛り上がってNANDフラッシュは不発に終わる、という事態が起こり得るのである。
ただでさえ、NANDフラッシュは3次元積層(3D)化で集積度を上げるようになってから、DRAMに比べて投資負担が大きくなっている。「HDDを置き換えるNANDフラッシュは、需要の伸びしろがDRAMより大きいから、投資負担が大きくても大丈夫だ」というシナリオを信じて各社は3D化競争を続けてきた。だが、昨今の需要の低迷は各メモリメーカーの体力をむしばむ結果を生んでいる。何より、キオクシアの決算がその状況を物語っていると言えよう。
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