2020年3月、日本国内で5G(第5世代移動通信)関連サービスの提供が開始された。約3年半が経過し、日本国内の人口カバー率は96.6%(2022年末時点/総務省)と拡大した一方で、「日本の5G技術は遅れている」との見方も多い。世界と比較した国内5Gの現状や課題について、エリクソン・ジャパン 社長の野崎哲氏と、同じく社長のLuca Orsini氏に聞いた。
――5G関連サービスの提供開始から数年経過しました。世界ではどれくらい普及しているのでしょうか。
Luca Orsini氏 全世界での5G普及率は約15%(2023年8月時点)、世界人口カバー率は約35%(同時期)と、まだまだ普及の初期段階といえる。5G分野は、米国・中国・韓国・台湾などが先行していて、最も進んでいる韓国では、国内データ通信量全体の78%が5Gを活用したものだ。
――Ericssonは、5G市場でどれくらいのシェアを持っていますか。
Orsini氏 全世界には、商用5Gネットワークが約260ある。その内、スタンドアロン5Gは約35だ。Ericssonは、商用5Gの260ネットワークのうち155ネットワーク(66カ国)、スタンドアロン5Gでは35ネットワークのうち26ネットワークを提供している。
――「日本の5G技術は遅れている」との意見もあります。エリクソン・ジャパン(以下、エリクソン)は日本の状況をどう見ていますか。
野崎哲氏 日本の5Gの人口カバー率は、総務省の調査(2022年末)によると96%だ。スマートフォンなどの移動通信機器の5G対応率は、KDDI、NTTドコモ、ソフトバンクなどの通信事業者の発表によると50%強で、普及範囲という意味では進んでいる印象だ。
一方で、サブ6GHz帯、ミリ波帯の使用や「Massive MIMO」の活用については、米国・韓国・中国・台湾に比べて大きく遅れている状況だ。今後、データ通信量は、日本を含む全世界で爆発的に伸びていくと予想されている。日本は、この通信量の伸びに対応するために、Massive MIMOを活用する必要がある。
――なぜ、日本ではMassive MIMOが普及していないのでしょうか。
Orsini氏 日本でMassive MIMOが普及しない理由は、Massive MIMO無線機のコスト高やサイズの大きさが挙げられる。日本は、5Gサービスの開始当初、短期的に5Gの普及範囲を広げる戦略を取ったため、Massive MIMO無線機の開発が後回しになった。結果、価格が高止まりし、小型化の研究も進んでいないのが実情だ。エリクソンが最初に開発したMassive MIMO無線機も約60kgでマットレスくらいの大きさだった。
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