EUは欧州半導体法の一環として、最先端ノードの製造プロセスを産業化すべく、少なくとも3つのパイロットラインを構築する。imecで2nm以細のGAAプロセス技術開発を、CEA-Letiで10nm以降のFD-SOIプロセス技術を、Fraunhofer Instituteでヘテロジニアスシステムインテグレーションを手掛けていくという。
EUは、「European Chips Act(欧州半導体法)」策定に至るまでの協議段階で、マイクロエレクトロニクス研究の3大機関である、フランスCEA-Leti(フランス原子力庁の電子情報技術研究所)とベルギーimec、ドイツFraunhofer Gesellschaft(フラウンホーファー研究機構)に対し、2030年までに生産を倍増させるという欧州の取り組みをどのように支援できるかを尋ね、戦略ロードマップへの提言を求めたという。これらの研究機関からの提案では、FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)プロセス技術を10nmまで微細化すべく、フランスのグルノーブルにFD-SOIプロセスのパイロットラインを設立することなどが挙げられた。
もっと高い目標を狙えるのに、なぜ10nmをターゲットと設定するのか。EC委員(域内市場担当)であるThierry Breton氏は、目標を引き上げ、7nm FD-SOIプロセスへの微細化を提案した。批判が飛び交ったが、同氏は主張し続けた。
Breton氏は2023年9月、Soitecがグルノーブル近郊のベルナン(Bernin)に設立したSiC(炭化ケイ素)ウエハー工場の落成式に参加し、「われわれが実現に向けた野心を抱き、欧州レベルで協力すれば、そこ(7nm FD-SOI)に到達できる」と述べている。
「われわれは欧州半導体法の一環として、3カ所にパイロットラインを設立するための資金を確保した。その中の1つである10億米ドル規模のFD-SOIパイロットラインでは、あらゆる種類の試験を実施できる。将来の市場に対する準備は不可欠だ。われわれは10nm以降、さらには7nmの実現に向けて、サポートを提供していきたい」(Breton氏)
カーボンニュートラルを実現するためには、パワー半導体のエネルギー効率向上が不可欠だ。CEA-Letiは、「FD-SOIは、同レベルのシリコントランジスタと比べ、25%の高速化と、最大40%の消費エネルギー削減を達成できる」と主張する。
FD-SOIのルーツは、グルノーブル地域にある。CEA-Letiは20年以上にわたってFD-SOIの研究開発に重点的に取り組んできた。FD-SOI技術では、シリコン基板上に形成する超薄膜絶縁層 と極薄シリコン膜を組み合わせたもので、トランジスタ動作をより適切に制御できる。またこのアーキテクチャは、動作中のスイッチング速度を動的に変化させ 、速度の重要性が低い場合に電力消費量を最適化するための効果的な手段を提供することが可能だ。さらに、FD-SOIはプレーナ型構造のため、FinFETほど製造が複雑ではない。
Breton氏は、「欧州が研究にのみ投資し、生産を海外に任せていた時代は過ぎ去った。欧州半導体法は、半導体バリューチェーン全体にわたり競争力のある欧州産業基盤の実現に向け、直接資金の投入および資金提供の承認を進めていく」と述べる。
しかし、EUの域内市場と産業バリューチェーンを保護するためには、資金提供以上のものが必要だ。
Breton氏は、「資金援助を行うことはできるが、必要なのは画期的な技術である」と述べる。「われわれは、リスクを取る手助けをしようとしている。そこに存在している市場を、台湾や米国だけに任せるわけにはいかないからだ」(Breton氏)
政治/産業同盟は結局のところ、各派閥の利益を守り、バリューチェーンを維持するための権力闘争や仲裁へと帰着することになる。
技術主導権を追求するEUの取り組みは、孤立主義や保護主義、自由貿易の終焉をもたらすものではない。志を同じくする国々や戦略的パートナーとの、二国間の協業を推進していくためのものだ。また、産業政策を実施し、メガファブ(巨大工場)のような適切な産業能力を形成して、バリューチェーンのあらゆるレベルで投資を行うということでもある
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