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物議をかもすFordと中国CATLの協業、米国内から懸念の声EV用バッテリー工場の建設を再開(1/3 ページ)

Ford Motorは、中国のEV向け電池メーカーのCATLと協業し、米国ミシガン州に電池製造のためのギガファクトリーを建設中だ。ただ、米中ハイテク戦争が続く中、この協業は物議をかもしている。

» 2023年12月04日 11時30分 公開

 Ford Motor(以下、Ford)は同社のパートナー企業である中国のEVバッテリーメーカーCATL(Contemporary Amperex Technology)とともに、電気自動車(EV)向けバッテリーを製造するために、米国ミシガン州マーシャルに数十億米ドル規模のギガファクトリーの建設を進めている。業界専門家は米国EE Timesに対して、「この提携は必然的なものだ」と語った。ただし、Fordはこの提携について、あまり大きくは言いたくないようだ。同社は2023年11月21日(現地時間)、同工場への投資額と雇用者数に関する変更を発表した。

AutomobilityのCEO、Bill Rosso氏 AutomobilityのCEO、Bill Rosso氏 出所:Automobility

 上海を拠点とする戦略コンサルティング・投資プラットフォームであるAutomobilityのCEO(最高経営責任者)で、Chryslerの元中国支社長のBill Russo氏はEE Timesの独占インタビューで、「同工場は、間違いなくFordが運営する。合弁会社ではなく、Fordが所有する工場になる」と述べ、「同プロジェクトは、中国の工場であるという烙印を押されるのを回避しようとしている」と付け加えた。

 Fordが2023年2月に発表したミシガン州マーシャルの「BlueOval Battery Park Michigan」プロジェクトは、中国との関係が懸念されている。同プロジェクトでは、世界最大規模のEVバッテリーメーカーとされるCATLのバッテリー技術を採用している。Fordは、CATLとの協業や技術のライセンス供与を前面には出さず、リリースの後半部分で目立たないように協力関係について触れている。

 同プロジェクトは、米中のハイテク戦争が続く中で発表され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生源やIP(Intellectual Property)の盗用、2023年2月に米国上空を飛行した偵察気球をめぐる一連の懸念に続いて不信感が広がった。

 Russo氏は、「現在、米国で超党派で唯一言えるのは、『中国が悪いということに全員で同意しよう』ということだけだ」と述べている。

 多くの自動車メーカーは、米国で販売しているEVの動力源となるバッテリーを中国から調達していることについて批判を受けていない。それにもかかわらず、ワシントンの議員は、FordとCATLの提携については精査を要求している。

 Russo氏は、「FordがCATLの提携を俎上(そじょう)に載せることなく、米国の労働者を使って秘密裏に工場を建設するのであれば、それは良くないことだ。だが、バッテリーを購入し、船に載せ、自動車に組み込むことが問題ないのであれば、ミシガンに工場を設置し、数千人の米国人労働者を雇用することがなぜ良くないのか、私には理解できない」と述べている。

 EE TimesはFordとCATLに対してこの記事に関するコメント要請したが、両社は拒否した。

EV業界をけん引する中国

 ジョー・バイデン米大統領は、米国が化石燃料から脱却し、国内の製造業を復活させるために、EVの国内生産を望んでいる。バイデン政権が2022年8月に成立させた「インフレ抑制法(IRA)」は、米国を拠点とするEVバッテリー生産を前提としているが、現時点ではそれに対応できる工場は存在しない。

 中国は約20年前に、ガソリン車よりもEVを優先した。そして、EV関連の産業を築き上げ、この分野で世界をけん引するようになった。

 EV業界のコンサルタントであるSandy Munro氏は、EE Timesの取材に応じ、「中国は、EVの発展という点において、他に抜きん出ている」と述べる。

 米国ワシントンD.C.に拠点を置く経営コンサルタント会社Albright Stonebridge Groupで、グローバル規模の技術企業のアドバイザーを務めているPaul Triolo氏は、EE Timesの独占インタビューの中で、「その結果、今や中国メーカーが支配するIPが大量に存在している」と述べている。

 こうしたIPの例として、以下が挙げられる。

  • CATLのウェブサイトによれば、同社のEV用リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池は、5分間で電池残量80%まで充電できるとする。エネルギー密度が265Wh/kgに向上し、EVの走行距離を充電なしで約1000km伸ばすことが可能だという
  • CATLとそのライバルであるBYD(Build Your Dreams)は、EV用電池の主要な化学物質としてLFPを採用している。Munro氏は、「LFP電池パックは、競合するEV電池よりも低コストで発火しにくく、寿命が長い」と述べる
  • 電池メーカーは、新しい技術を開発し続けている。Reuters(ロイター通信)によると、CATLが2023年4月に発表した凝縮系電池(コンデンスドバッテリー)は、電動航空機の駆動に十分なエネルギー密度を実現するという
Sino Auto Insightsでマネージングディレクターを務めるTu Le氏 Sino Auto Insightsでマネージングディレクターを務めるTu Le氏 出所:Tu Le氏

 米国ミシガン州トロイに拠点を置く経営コンサルティング会社Sino Auto Insightsでマネージングディレクターを務めるTu Le氏は、EE Timesの独占インタビューで、「米国の自動車メーカーが、一般消費者にも手が届くEVを実現するためには、BYD/CATLとの関与が不可欠だ」と述べる。

 Le氏は、「米国のレガシー企業(自動車メーカー)が手頃な価格の自動車を実現するには、中国製の電池を使用するしかない。生産能力と製造の観点から見ると、中国企業は永久にわれわれのはるか先を進んで行くだろう」と述べる。

 観測筋からは、「今回のFordのプロジェクトは、ギガファクトリーの建設だけでなく、Fordが自社製EVで中国市場に参入するためのものではないか」とみる声も上がっている。

 一方で、「FordとCATLの提携により、膨大な数の中国EV電池メーカーが米国市場に押し寄せることになるのではないか」との懸念もある。

 Le氏は、「米国政府側が懸念しているのは、Ford/CATLが、中国工場と連携して米国内に電池市場を形成しようとしているのではないかという点だ」と述べる。「中国電池メーカーの米国への参入を許せば、米国が今後、競争力のある国産の電池セルを保有することは不可能だ。中国電池メーカーは、常に低価格化を進めていくだろう」(Le氏)

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