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Rapidusとも提携、Tenstorrentの現状と戦略Jim Keller氏に独占インタビュー(1/3 ページ)

2nmプロセスベースのAIエッジデバイス領域での半導体IPに関して、Rapidusと提携を結んだTenstorrent。同社CEOのJim Keller氏が今回、米国EE Timesのインタビューに応じ、事業の現状や戦略などを語った。

» 2023年12月05日 11時30分 公開
[Sally Ward-FoxtonEE Times]

 TenstorrentのCEO(最高経営責任者)であるJim Keller氏は2023年11月、Rapidusとの提携を結ぶ署名式でスピーチを行い「われわれはRapidusとの初めての会合の時に、とてもエキサイティングな話を聞いた。同社は、新技術開発のイテレーションを高速化し、量産よりも、手持ちの製品のテープアウトを最優先したいというのだ。非常に良い注目点だと思う」と述べた。

日本国内に「CPU/研究開発チーム」を設立予定

TenstorrentのCEO、Jim Keller氏(左)とRapidusの社長兼CEO、小池淳義氏(右) 出所:Tenstorrent TenstorrentのCEO、Jim Keller氏(左)とRapidusの社長兼CEO、小池淳義氏(右) 出所:Tenstorrent

 TenstorrentにとってRapidusとの契約は、アジアの半導体メーカーとの公的な提携としては4件目となる。Rapidusは、LG Electronicsや、韓国の車載用SoC(System on Chip)メーカーであるBOS SemiconductorともIP(Intellectual Property)ライセンス契約を締結している。またHyundaiは、同社のポートフォリオ全体でTenstorrentの技術を採用する予定だという。米国EE Timesが取材したところ、Tenstorrentは、日本の優れた人材と、HPC(高性能コンピューティング)における日本の実績をベースとして、日本国内にCPU/研究開発チームを設立する予定であることが分かった。

 TenstorrentとRapidusは今回の提携によって、2nmロジック半導体をベースとしたデバイスに搭載するAI(人工知能)向けの半導体IPを共同開発するという(Tenstorrentは既に、近々発表予定の同社のチップレットベース設計「Grendel」を、Samsung Foundryの3nmプロセスで製造すると発表している)

 Keller氏は、「われわれはプロセス設計メーカーではなく、プロセス技術やCADツール、PDK(Process Design Kit)、ライブラリなどを使用するコンピュータ設計メーカーだ。Rapidusのチームとの協業によって、これをイテレーションしていくことをとても楽しみにしている」と述べる。

署名式でスピーチする小池淳義氏 出所:Tenstorrent 署名式でスピーチする小池淳義氏 出所:Tenstorrent

 Rapidusの計画は、非常に挑戦的だ。日本初となる2nmプロセス対応工場を北海道の千歳市に建設し、2025年4月にパイロットラインを稼働、2027年には量産を開始する予定だ。同社の社長兼CEO(最高経営責任者)である小池淳義氏は、今回の署名式の中で、「当社の2棟目となる工場では、1.4nmプロセス技術の実現を目指し、重点を置く分野として『スピード』と『サステナビリティ』の2つを掲げる」と述べている。

 小池氏は、「Tenstorrentとの協業は、非常に光栄なことだ。Jimのチームと共に仕事ができることをうれしく思っている。われわれはAI分野において、全く新しい革新的な世界を作り出すことができると確信している。Tenstorrentが生み出す、素晴らしくイノベーティブな設計と、Rapidusのスピードとが組み合わされば、全てを変えることができる」と述べる。

 同氏は、「2023年9月に着工した当社初となる工場の建設は、順調に進んでいる」と付け加えた。

自動車分野での勢い

 Tenstorrentは、まだ市場にシリコンを投入していないが、動きの速い分野のスタートアップとして勢いに不足はない。

 同社は、「Tensix」AIアクセラレーターコアIPと「Ascalon」CPUコアIPを韓国の家電大手であるLGにライセンス供与した。LGは、Tensix IPをスマートテレビや車載チップに使用する計画だという。Tenstorrentに出資しているHyundaiは、Tenstorrentの IPを使用して、将来の自動車やロボット、高度な航空モビリティでAIを実現するとしている。韓国の車載SoCメーカーであるBOS Semiconductor(同社もHyundaiから資金提供を受けている)は、コネクテッドカーや自動運転向けのSoCの設計用にTensix IPコアのライセンスを取得している。

 TenstorrentのTensix AIアクセラレーターとAscalon CPUコアは、どちらもオープンソースのRISC-V命令セットに基づいて構築されている。韓国の自動車メーカーはRISC-Vをいち早く採用しているようだが、他の自動車業界はオープンソースの技術の採用にはまだ消極的なのではないだろうか。

 Keller氏はEE Timesの独占インタビューで、「RISC-Vはすでに多くの場所で製品に採用されていて、安全性の確立に取り組んでいる委員会やグループもあるが、それには時間がかかる。現時点では、Armには『チェックボックス』がありRISC-Vにはないが、RISC-Vは『チェックボックス』のチェックに取り組んでいる。これによってコストが下がり、イノベーションが向上すると期待される」と述べている。

 Keller氏は以前、Teslaのオートパイロットチップを製造するチームを率いていたが、Teslaは独自のチップを作りたがる自動車メーカーの事例としてよく引き合いに出される。

 同氏は、Hyundaiのような自動車メーカーが独自チップの設計を検討していると考えているのだろうか。

 「多くの人が『そんなことは絶対にできない。コストがかかりすぎる』と言っていたが、今では『Teslaがやったのだから、誰でもできる』と誰もが言っている。これは、どちらも正しくはない。コストがかかりすぎるわけでも、簡単なことでもない。必要なのは、真剣に取り組むことだ。何年にもわたってコミットしなければならないが、それをやれば、他の誰も得られないような恩恵を得ることができる」と同氏は述べる。

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